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03



「さて、と──」


携帯灰皿で煙草を揉み消し、ぱんぱんと白衣をはたいてエドガーは立ち上がった。


「おっさんはとっとと寝るか。じゃあシン、気にせず続けていいぜ」

「ざけんな馬鹿。誰がそんな趣味の悪い事するかよ」


言って立ち上がり、シンはエドガーを顧みる事なく、彼の横を通ってとっとと寝室へと引き上げていった。



◇◇◇



不意に窓を揺るがした突風の音に、メイファはハッと目が覚めた。


「…?」


そっと音を立てぬよう立ち上がり、窓をこじ開ける。海風になぶられる髪を押さえ、メイファは夜空を見上げた。微風が頬を撫でる。
月明かりによって確認出来る細雲の流れはひどくゆったりだ。


「…アダム?」


海風に浚われたその声に応えるように、突風が再度吹き荒れる。
それはうるさく室内にある物をざわめかせたが、自分を挟むような格好でそれぞれのベッドで寝ている優もアナスタシアも覚醒する兆しは見せなかった。

メイファは決心すると、そっと扉を開き、物音一つしない客室の廊下を駆けた。階段を駆け上がり、つい昨日彼と会ったあの展望台へと駆け上がる。

星の光が降り注ぐ空間に辿り着いた時、欄干にもたれ掛かっている人影にメイファの目は奪われた。


「アダム…」


静寂の中によく響いたその声に、月光の下にいた人物はハッと顔を上げた。彼の瞳にみるみる歓喜の色が浮かぶ。


「…メイファ!よかった、気付かれんかったらどないしょ思ってん!」


欄干から身を離し、アダムが駆け寄ってくる。


「…どうしたアルか?」


心掛けてもやはりどこかで彼が始祖である事を意識してしまう。どことなく余所余所しくなる自分の態度に、メイファの胸中をもやもやが渦巻いた。

それを気付いている筈なのに、アダムは出会った時と変わらない笑顔を浮かべている。だがそれは瞬く間に引き締まり、そして意外な言葉を紡いだ。


「薔薇十字団の崩壊跡地」

「……へ?」

「ユーラシアに着いたらすぐに行ってくれへん?」


あまりに思い掛けない言葉にメイファは目を白黒させた。


「何か…あるアルか?」


ただそう尋ねるので精一杯だった。アダムの真摯な瞳は、真っ直ぐメイファを見つめたままでメイファは決してその瞳から目を逸らせなかった。


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