02
「メイファ」
名を呼ぶと不安げに揺れる瞳が優を捉えた。その手を取り、優はにっこりと笑った。
「大丈夫だからね」
「………優?」
「アダムの事、気にしてんでしょ」
言葉を詰まらせたメイファに優は再度笑った。
「アダム、他の始祖とは違うよ。だってメイファを見た時アダムはっきりと動揺してたでしょ?」
「…だってアダムは、始祖として会う前にうちと会ってたアル。うちが優と一緒にいる事知らなかったから、それで驚いただけヨ」
自分で言っておいてその言葉はメイファの胸を締め付けた。ぎゅっと力の込もったメイファの手を、優は緊張を解すように強く握り締めた。
「あたしはそう思わない。あの時のアダムの顔、あたしそうは思わなかったもん」
「…優はうちが始祖と仲良くしてた事怒らないアルか?」
「ははっ、なんでよ」
優は笑う。
「いい子なんでしょ?その子」
「う…うん、一緒にいてすっごい楽しいヨ!」
「だったらいいじゃん」
優は笑った。あまりにあっさりとしたその返答にメイファは目を白黒させた。
「アダムは他の始祖とは違うよ。イザヤ、ルカ、イヴ──彼らとは根本的に何か違う。少なくともあたしはそう感じた。──あっ、みんなには内緒ね。そんな事思ってるの、さすがにマズいから」
そう言って悪戯っぽく笑った優につられるように、メイファも口元を綻ばせた。
「…ありがとう、優。やっぱりうち優の事大好きヨ」
「あたしも。でも、くれぐれもみんなには内緒だからね」
自分の口元に指を当てた優の幼い仕草に、メイファは笑って頷いた。
「……」
──そんな二人の会話を盗み聞きする、二つの影に気付く事なく。
扉の脇に壁を背にして座り、紫煙を燻らせながらエドガーは反対側にいる人物をちらりと見た。
「…だとよ。シン」
「盗み聞きかよ、おっさん。いい趣味とは言えねぇな」
「おいおい。ここにいる時点でお前も同罪だろ?」
その言葉に、シンは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、憮然と床に腰を下ろした。そして非常に長い溜め息と共に、低く声を絞り出した。
「あの馬鹿…考えが甘過ぎんだよ」
「ンな事言うなって。あんなん所詮便宜上だろ」
「明らか本気じゃねぇか。見てて分かんねぇのか、あんた」
「悪ぃな。俺、お前程女神を見てねぇからよ」
明らか揶揄のこもった声色に瞬時にしてシンを取り巻く空気が変化する。怒りさえこもったそのオーラを感じ取っている筈だが、エドガーの横顔は崩れない。
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