05
「──…分かんねぇんだよ」
苦悩に満ちたその呟きは、誰の耳にも届く事なく静かな室内に溶けるようにして消えていった。
◇◇◇
「すっごいアルー!」
展望台の欄干から身を乗り出し、メイファは眼下に広がる景色に目を輝かせた。
真っ青な青空の下、太陽の光を受けて輝くどこまでも広がる雄大な大海原は、大陸育ちのメイファにとって非常に心躍る景観だった。
こんなに良い天気なのに展望台にはメイファしかおらず、メイファはこの美しい景色を一人占め出来ている事実に、にんまりと笑った。
風が強い。
恐らくこれが人気の無い原因なのだろうが、そんな事メイファには一切関係ない。
「そーだ、優でも呼んでこよーっと」
ぴょん、と欄干から飛び退り、メイファはぐるりと階段のある方へと向かおうとした。
その瞬間、急に船上で旋風が巻き起こり、声を上げて反射的にメイファは目を覆った。
旋風は発生した時と同じように唐突に止み、恐る恐る目を開いたメイファは、目の前の屈み込んだ背中に目を輝かせた。
「アダム!」
歓喜に近いその声に、その人物は振り返ると大きな目を見開いた。
「メイファ!」
どちらからともなく二人は駆け寄った。
「なんや、メイファこの船に乗っとったんやなぁ!」
「アイヤー、久し振りネ!」
互いの手を取り合い、嬉しそうに飛び跳ねる。
「メイファ、元気にしとった?」
「勿論ネ!アダムこそ、元気にしてたアルか?」
「当然やで!鍛錬も真面目に始めてなぁ、最近やっとこの能力扱えるようになってん」
「アイヤー凄いヨ!今日はどうしたネ?空中散歩の途中アルか?」
「んー?ちゃうでー」
欄干に背を預け、空を仰いだ状態でアダムは首を振った。
「ちょっとなぁ、用事言い渡されてん」
「用事?」
「そーやでぇ。人捜し。この船に乗っとるらしいんやけどなぁ、俺その人の特徴も何も分からんねん」
「アイヤー。そんな状態じゃ捜せないヨ」
「やろー?」
さも他人事のようにアダムは笑う。
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