03
「俺だって習得してねぇんだよ。回復魔法の習得は他の魔法に比べて桁違いに難しいんだ。だろ、アナスタシア?」
「そうらしいですわね。けれど、肉体──生命活動に関わる魔法は、それでいいと思いますわ」
「?なんで?」
「負傷した肉体を修復する──それは生命を操作する事に繋がる。そんなの神への冒涜だ。異端の技術と変わらない」
「…」
「薔薇十字団の信条ではそうなっているそうですわね」
アナスタシアは笑った。
「でも我がロシアでは近年その考えは変わってきていますのよ。魔法論理に秀でた方達が今、回復魔法の論理解明に励んでいますの。私としては賛同出来かねますけど、小規模──小さな傷を治すぐらいなら肉体にかかる負担も軽いですし」
「アナスタシアは使えるの?」
「いいえ。才が無いんですの」
「現実問題、扱える人間はいねぇんだ」
「ふうん。──まっ、よく分かったからさ。とにかく治療するよ」
手際よく優は治療を進める。包帯を巻いていくその馴れた手付きにシンは意外そうに目を瞬かせた。
「随分手馴れてんだな」
と、思わず声に出してしまった程だ。得意げに優は笑う。
「ま、ね。──はい、終了。どう?大丈夫?」
「…ん、多分」
「本当?…よかった」
ほっと安堵の息をついた優にシンは一瞬目を奪われたが、彼はすぐに取り繕うように視線を逸らして黙りこくった。
「──じゃ、ちょっとあたしメイファんとこ行ってくるね」
よっと立ち上がり、あっという間に優は室外へと出ていった。
その気配が完全に遠ざかったのを見計らい、アナスタシアはシンの正面に腰を下ろす。そんなアナスタシアの前で、シンは今しがた優によって巻かれた包帯を気遣いながらインナーの袖を下ろしている。
そんな彼をアナスタシアは真っ直ぐ見つめた。
「…どうですの?」
その唐突な言葉にシンは顔を上げた。
「どうっ、て──」
「優ですわ。シンにとって彼女は優ですの?それとも女神ですの?」
「…それを訊いてどうするんだ」
不快気に目を眇めたシンにも、アナスタシアの意思は揺るがない。
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