02
「シン、傷大丈夫?」
今度は優の番。シンの顔を覗き込んで尋ねたが、彼は「ああ」と短い返事を返しただけで、それきり何も言おうとしなかった。
優の眉間に皺が寄る。貫通する程の傷がそんなにすぐに塞がる筈がない。案の定、鎮痛と止血を兼ねてかシンは脇の付け根を押さえたままだ。
「…傷酷いんでしょ?治すから腕出して」
「いいよ、別に」
「あのさぁ…エドガーといいあんたといい、どうしてそうやって自分で何とかしようって思うわけ?」
「別に何とかしようと思ってるわけじゃねぇよ。必要ないからそう言ってんだ」
「必要ないわけないでしょ?あんた腕貫通されてんのよ!──ほら、いいからとっとと出す!」
問答無用のままシンの腕に掴みかかる。
「ちょ…おま…、おいっ!」
「うわっ、ひどっ…」
現れた惨状に優は眉を寄せた。傷口自体は小さなものであるが、貫通された事による出血量が尋常ではない。シンの腕を伝って鮮血が優の制服に垂れてきた。
「でも腕が動かせるって事は神経系は損傷を受けてないようですわね」
後ろから覗き込んできたアナスタシアの声を聞きながら、優は救急箱を開け、消毒液やらガーゼやらを取り出した。
「ほら、治すよ」
「…い、いいっつってんだろ!」
「うるさい」
「…っ今すぐ放せよ!」
「ちょ…馬鹿、暴れんな!あっ──!」
「い──ってぇぇえ!!」
消毒液がちょうど患部にぶちまけられ、シンは悲鳴を上げた。
「…ふざけんな!なにすんだよ、お前!」
「なにそれ、あんたが大人しくしないからでしょ!?」
「まあ…」
不毛な言い争いを続ける二人の後ろで、アナスタシアはある考えに行き付き小さく声を上げた。
「もしかしてシン、自分で回復魔法を使うつもりですの?やめておいた方がいいと思いますわ。あれは他の魔法より人体に加わる負担が大きいんでしょう?」
「そうなの?」
不思議そうな優にアナスタシアは頷いた。
「人体の自然治癒力を増進させる魔法ですもの。という事は、人体の成長を無理矢理早める──つまり、肉体にすぐガタが来てしまうんですわ」
「うわっ…あたしそれ絶対やだ、嫌過ぎる」
「それだけじゃありませんわ。肌年齢も一気に低下ですわよ」
「だったらシン絶対駄目。そんな魔法使うくらいなら、大人しくあたしの治療受けて」
「誰が回復魔法使うっつった、誰が!」
かなり大真面目に言ってのけた優を、シンは一蹴する。
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