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「…取り敢えず、一安心だね」


救急箱を抱えて窓の外に広がる海原を眺めながら呟いた優に、アナスタシアは大きく頷いた。

ここは旅客船の客室内である。
ソファに腰掛けて、今現在優達は傷の治療に勤しんでいた。

メイファは膝にちょっとした擦り傷を負っただけで「船内探検してくるヨ!」と言い残して元気に飛び出していき、室内にいるのは優達四人だけである。

「さあ、あとは重症患者の治療ですわ。──エドガー、こちらに来て下さいませ」

「んー?俺はいいわ」


窓辺に寄り掛かって煙草を燻らせているエドガーの答えにアナスタシアは目を丸くする。
煙草を掲げた腕には今真新しい包帯が巻かれているが、それは消毒も何もなしに巻かれたもので、新たな鮮血が滲んでいた。


「何を仰いますの、まだ出血していますのよ。せめて消毒だけでもさせて下さいませ。病菌が入ってしまいますわ」

「いいって、いいって。消毒くらい後でやるわ」

「後でやるくらいなら今やるべきですわ!」


語気荒く言ったアナスタシアにも、エドガーは煙草を燻らせるだけだ。


「そもそも、何で俺もお宅らと一緒に船ん中いるわけ?」

「あの場にいた以上、仕方ありませんわ」

「イザヤ達にも姿見られちゃったし」

「ユーラシアまでこの船は一直線だ。帰るんだったら、ユーラシアに着いてから考えろよ」

「仕方ねぇなあ……。のんびり行かせてもらうとするか」

「でしたら言う事聞いて下さいませ。ほら、消毒しますわよ」


消毒液を持って近寄ってきたアナスタシアにエドガーは一瞬だけ彼女に視線を向けたが、彼はすぐにまた煙草を燻らせた。


「いいって。ほら、ここにいると副流煙で肺ガンになっちまうぜ?」

「煙草を控えればすむ話ですわ」

「これ俺の精神安定剤なんだよ」


取り付く島もないエドガーに、困ったようにアナスタシアは眉尻を下げた。


「エドガー。少しの消毒なのにどうしてそんなに拒むんですの?」

「いやー。女の子にそんな手間取らすわけにはいかねぇだろ」

「そんな気遣い無用ですわ」

「いーんだって。自分の事くれぇ自分でするわ」

「でも…」

「ほっとけアナスタシア。本人がいいっつってんだ、何言っても無駄だろ」


ソファに腰掛けたままのシンの言葉に、アナスタシアは渋々ながらも引き下がった。


「エドガー。ちゃんと消毒しますのよ?」


と、強く釘を刺して。
そんな彼女にエドガーは「はいはい」と明らかな生返事を返して白衣を翻すと、煙草を吸いながら外に出て行った。


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あきゅろす。
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