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01



ちょうど一週間が経過した。


チャイナ行きの旅客船が今日港を発つ。身支度を整え、優達は世話になったリネットに挨拶に向かった。
まだ朝靄の立ち込める早朝だと言うのに、リネットは既にキッチンで料理に取り掛かろうとしていた。


「リネットさん。今までお世話になりました」


代表して頭を下げた優に、リネットは驚いたようだった。


「もう行っちゃうの?」

「ええ。朝一の便で」

「だったら港までエドガーに送らせるわ。もう少ししたら帰ってくると思うから」

「エドガー、こんな朝早くにどこ行ってるアルか?」


まだ眠そうに目を擦りながら尋ねてきたメイファに、家電を取り出しながらリネットは、


「ちょっと、ね」


と答えただけで、深くは何も言わなかった。数回のコール後にエドガーは出たらしく、旨を全て伝えるとリネットは受話器を下ろした。


「時間まだ大丈夫?よかったら朝ご飯食べていって」


リネットは手早くオムレツを焼き、優達は簡単に朝ご飯を頂くと、玄関先で車のエンジン音が聞こえてきてリネットは勝手口を開けた。


「お帰りなさい、エドガー」


彼女の言葉に続いて「おー」と短い返事が小さく聞こえてくる。リネットに再度挨拶をして優達は玄関先に出た。


「おーっす。おはよーさん」

「はよー」


車の窓から顔を覗かせたまま、エドガーは既にトレードマークの白衣に身を包んでいる。


「出港は何時だ?」

「7時ちょうどだ」

「じゃあ、まだ余裕だな」


アクセルを踏み、優達を乗せた車はがらがらの車道を進んでいく。


「エドガーっていっつもこんなに朝早いの?」


開けた窓から入ってくる朝特有の瑞々しい空気を感じながら優は尋ねる。エドガーは煙草を銜え、紫煙が風に吹かれていくのを眺めながら頷いた。


「まぁな」

「私達を送って遅刻になりませんの?」


純粋な疑問をぶつけてきたアナスタシアをエドガーは笑い飛ばした。


「おいおい、さすがにこんな朝早くから研究所も開いてねーって」


だったらこんな時間にどこ行ってんの、と思ったが、それを尋ねるのは何となく憚られて、優は何も言わずに人で賑わい始めているワシントンの街並みを眺めた。

やがて、優達を乗せた車はそのまま港に到着した。朝靄の立ち込める大きな港は、まだ船員が疎らにいるだけで、優達が乗る予定の旅客船も船員達によって最終確認が行われているようだ。


「まだちょっと余裕がありそうだな」

「エドガー時間まだ大丈夫?」

「大丈夫だよ。リネットにもちゃんと最後まで見送ってこいって言われてるからな」

「エドガー二言目にはリネットアル。奥さんの事、凄い愛してるヨ」

「ここだけの話、実は俺、愛妻家って結構評判なんだぜ?」

「実は、とかじゃないと思うけど」

「誰が見ても明らかじゃねぇか」


優とシンの突っ込みを華麗に流し、エドガーは煙草に火をつけた。吐かれた紫煙が暫く大気中に残留して消えていく。


「お宅ら、これからどーすんだ?」

「特に決めてないよ。ユーラシアに戻ってから決めるの」

「エドガーも一緒に来るアルかー?」


目を輝かせて尋ねてきたメイファに、エドガーは肩を竦めた。


「行ってもどうにもなんねぇよ。俺、部外者だし」

「ちぇっ。残念ネ」


頬を膨らませたメイファの前で、エドガーは太陽の光で金色に輝く空を見上げ、また紫煙をくゆらせた。そんな彼の眉が訝しげに顰められる。


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