05
「な、なにするアルか!?」
「逃げる」
えっ、と思った瞬間、旋風は一際大きくなり、メイファの視界は風の壁によって塞がれた。思わず漏れた悲鳴か、はたまた風の音が届いたか、入り口付近にいた男達はハッとし、風の音を通り抜ける程の声量で声を張り上げた。
「──アダム様!」
「あー、せや。俺の名前それやったわ」
思い出した、と実に呑気な口調で呟いた少年──アダムは、にやりと勝ち誇ったような笑みを浮かべている。周囲を取り巻く風はより激しさを増し、反射的に目を瞑ったメイファの体は、次の瞬間奇妙な浮遊感に襲われた。
え、と思って目を開けたメイファは、己の目を疑った。
遙か下に、先程までいた筈の公園がある。
「え、え、えぇぇえ!!?」
「へっへーん。どや、凄いやろー」
楽しそうなアダムの声を聞きながら、メイファは必死に彼の体にしがみついて、普段絶対見る事の出来ない上空からの景色に心躍らせた。
射し込んだ西日は摩天楼を美しく照らし、遙か遠くに見える海も眩しいばかりに光り輝いている。
「凄いアル!空の散歩アル!」
「メイファー。しっかり掴まっとかんと落ちるでー」
空を蹴り、アダムは更に空中に身を躍らせる。高層ビルとビルの間を行き交う際、ビルの中にいる会社員達が驚いた顔をして二人の姿を見ているのにメイファは笑い声を上げた。
「凄いヨ、凄いヨー!ね、ね!これも魔法アルか?」
「どうなんかなぁー。メイファ、ちょおこれ見てみ」
ほらほら、と示され、メイファは空を蹴った彼のブーツに視線を落とした。
そこにあったのは、先程まで彼の履いていたブーツではなかった。同じ黒のブーツには変わりないが、ショートブーツから一転、ロングブーツになっている。
それだけではない。その黒のロングブーツには孔雀色の細やかな細工が施されていて、普通の品物ではない事が明らかだった。
「このブーツのおかげで空飛べるアルかー?」
「そうやなぁー」
「凄いヨ、凄いヨ!どこかで買ったアルか?」
「ちゃうでー。起きた時から持ってたん」
言い残し、アダムは太陽の位置を確認すると「ぼちぼちやな」と呟いて急降下した。
近付いてくる地面と、耳元でうるさい風の音にメイファは目を瞑る。だが降下するスピードは徐々に遅くなり、メイファはゆっくりと地面に下ろされた。
辺りを見回し、メイファはここがロックウェル宅に近い住宅街だという事に気付いた。
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