私と携帯獣
だいいっぽ
ヨシノシティにたどり着くと、もうそこにはヒビキもシルバーもいなくなっていた。
私に新品の靴をくれたおじいさんが二人の争いを見ていたようで、「お嬢ちゃんはあの子たちの知り合いかい?」と笑いながら事の顛末を教えてくれた。
私が二人の横をすり抜けてからも、二人の…というよりはヒビキのイライラは収まらなかったらしく、周りのやじ馬の提案によってポケモンバトルで勝負をしたらしい。
結果は、シルバーの勝利。
ヒビキはワニノコが倒れるやいなやポケモンセンターに駆け込み、シルバーは30番道路の方へと歩いていったそうだ。
「タイプの相性が悪かったんだろうねえ、水タイプのワニノコは草タイプのチコリータに弱いから」
「そうですねえ」
タイプの相性。
私には今、このヒノアラシが一匹いるけれど、これから先は仲間を増やしていった方が良さそうだ。
炎タイプであるヒノアラシ一匹で水タイプであるワニノコや地面タイプのポケモンと戦うのは厳しいだろうから。
おじいさんに別れを告げて、私は30番道路へと足を向ける。
途中で別れた道の右側にはポケモンじいさんの家へ続く道、そして左側には―…。
「トレーナー発見!さっそく勝負といきますか!」
「望むところ!」
ポケモントレーナーが待ち構えている道。
トレーナーとのバトルの中で、もらったばかりの図鑑のページがどんどんと増えていく。
合間に草むらでポケモンを捕まえていっても足りないくらいだ。
外に出しているヒノアラシは別として、私の腰に着いているベルトにはボールが1,2,3…
「6個!?」
「ヒノヒノ!?」
「いつの間にそんなに捕まえたっけ…」
「ヒノヒノ」
気が付けば、辺りは夕焼け色に染まっている。
ヒノアラシの背中で燃えている炎と同じ色だ。
今から目の前の洞窟に挑んでみようと思っていたけれど、今日は早めにポケモンセンターに行ったほうがよさそうだ。
旅の一日目から野宿でした、なんて少し女子としてはよろしくない気もする。
うん、でも…
「楽しい1日だったね、ヒノアラシ」
「ヒノ!」
昨日まで夢見ていただけだったポケモントレーナー。
それが今は現実となっていて、隣にはポケモンがいて、何人かのトレーナーとバトルもして、たくさんポケモンも捕まえて…。
こんなに楽しいことがあるのだろうか。
挑もうとしていた洞窟から目を離して西をむけば、沈んでいく夕日とともに明るい街明かりが見えた。
「今からならポケモンセンターもまだ空いてるのかな…行こうか、ヒノアラシ!」
初めての旅の1日目。
今日はとてもとても、今まで生きてきた中で一番楽しい日。
「ずいぶん楽しそうにしている子だったな、僕もポケモンと修行を始めた時はあんな感じだったかな」
一人の男が、タキが背を向けて走り出したばかりの洞窟の入り口から現れる。
タキの背中と夕日に対して眩しげに目を細め、彼はひとり笑った。
そして腰に着けたモンスターボールの数を確認した後、同じように歩き出す。
今日の宿泊地である、キキョウシティへと。
(今日は良い月だね、ゲンガー)
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