私と携帯獣
ひとだかり
何回ビードルやコークンと対戦したのだろう。
ヒノアラシはいつの間にやら「ひのこ」なんて素敵な技を覚えて、もう無双状態だ。
穏やかな陽気の中、ポケモンと並んで歩いていく。
何度夢を見たのかわからないくらい、憧れていたこのシチュエーション。
実現している今、この上なく幸せだ。
「いやー、楽しいね!ヒノアラシ」
「ヒノヒノ!」
「やっぱりヒノアラシも楽しいかー、うんうん。これから毎日一緒だからね」
隣を歩いていたヒノアラシが、嬉しそうに一声鳴いた。
その鳴き声が嬉しくて、ヒノアラシを肩に乗せてから一歩を踏み出す。
ポケモンじいさんの家は、もう目と鼻の先だ。
「ずいぶん楽しそうにポケモンを連れておる子じゃのう」
「ん?おお、ヒノアラシを持った子ですな!ウツギ博士からおつかいを頼まれたのはあの子でしょう」
「ふむふむ、なるほど」
タキの様子を窓から見ていた白衣を着た人物が、嬉しそうにつぶやく。
帽子をかぶった老人が真似するかのように窓から外を覗いて言った言葉にうなずき、白衣の人物は胸元から一つの機械を取り出した。
真っ赤に光る、手帳サイズのもの。
その機械と、この家に近づいてくる彼女を見比べ、白衣の人物は一人笑いを零した。
ポケモンじいさんの家からポケモンの卵を預かり、それを慎重に運ぶ。
どこからか現れる野生のポケモンはヒノアラシがひのこやたいあたりをして蹴散らしてくれる、なんて出来た子だ。
ポケモンじいさんの家がある30番道路を今度は逆の向きで歩いてヨシノシティにたどり着くと、ある一つの場所に人だかりができているのを見つけた。
そこはワカバタウンに行くには絶対に通らなければならないゲートの正面であり、私も行かざるを得ない。
卵を正面で抱え直して行ってみると、そこには見知った顔が2つ。
というより、騒ぎの中心人物の2人がどちらも知り合いである。
「…町中で2人して何やってるのさ」
「あ、タキ!?邪魔すんなよな、俺は最初のバトルでこいつぶっ倒すって決めてんだから!」
「…言ってろ」
ワカバタウンへ向かうために29番道路へそろりと抜けようとすれば、こちらの小さな独り言に気がついたヒビキが怒鳴った。
いや誰も邪魔してませんよ、ええ、ええ。
勝手に気がついたのはヒビキだよ。
そんなことを言ったら火に油を注ぐだけだと分かっていたため、心の中に留めておく。
ヒビキと彼の傍らのワニノコは戦闘準備万端の様子で、目の前の人物を飽きることなく睨んでいる。
ポケモンバトルしたいなら道路でやりなさい、道路で。
「ごめんね、シルバー。ヒビキの謎の闘争心に付き合わせちゃって」
「…フン、まったくだ」
「だーっ、なんでタキが謝ってんだよ!?」
「だってチコリータが怯えてるんだもの」
ヒビキたちに睨まれたシルバーとパートナーのチコリータ。
シルバーはどこ吹く風と言った感じでそっぽを向いているが、チコリータはその主の足の後ろに隠れるようにしてこちらを窺っている。
表情は怯えそのものだ。
ああ、チコリータを守ってあげたい…!
「私はこれからワカバタウンに戻るけど、チコリータ泣かせたら承知しないからね」
「はあ!?」
ヒビキはどうしてあんなにシルバーに突っかかるのか。
まだ冒険を始めたのは数時間前なのに、バトルしたがるのはヒビキらしいとも言えるけれど。
(タキの奴、俺とこいつのどっちの味方なんだよ!?)
(………)
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