アレルヤ(ハレルヤ)で20のお題
03/聞こえてますか?/Bbab
蛍光灯の切れない室内に、キーボードを叩くタイプ音が淡々と響いては消える。計画書の作成はやはり中々時間が掛かるもので、それもつくづくプランを変更せざるを得ない問題行動を起こすマイスター達がいるから尚のこと。考えても考えても想定外のハプニングに対しての補助作と計画への練り込みは幾分の可能性も疎かに出来ないこともあり先が見える様子もない。
もう数打打ち込み、漸く両腕を投げ出した。情報の多さに頭が痛くなりそうで、いい加減喉も身体もアルコールやら水分やらをやたらと欲している。年寄り臭いが疲労が疲労で背筋をしならせる様に反らし、マグカップを持ち上げた。
「……うわ」
しかし運が無いことに中身は空、思わず傾けるもコーヒーは湧いて出て来る訳も無く代わりに溜息が洩れる。おまけに思い返せば棚の中のインスタントコーヒーは先刻切れたばかりで、いよいよ廊下に出る必要があった。
ここから販売機までは少々遠いけれど仕方が無い、漸く重い腰を上げのろのろとシャッタードアへ歩み寄った。
するとだ、突然目の前の扉が音を立て開いたのだ。
「っわ!」
「あ」
無機質に白かった筈の視界が黒に変わり、見事にその突如現れた壁壁に顔からぶつかる。鼻を押さえて見上げれば、一週間見なかった顔が久々に私を見下ろしていた。
アレルヤ=ハプティズム、任務放棄により独房にて謹慎処分を受けていたマイスターだ。
些かやつれたように見える顔は少し血色悪く、一週間ぶりに浴びたシャワーが綺麗好きの彼を潤したかと思いきや、余り浮かない様子で彼はただ私を見下ろすばかり。
「大分こたえたみたいね、アレルヤ」
「……意味は、違うと思いますけど」
しかし、始めは懲りたかと思ったものの、寸でのところでその結論に疑問が提示される。
一週間前に独房に入る時の彼の表情は反省だったか、答えは否。私にはわからないけれど、彼に思うところがあり後悔などはしていない様に見えた。
そしてそれは今も変わらないとのこと。
「じゃ、何に懲りたのかしら?」
腰に手をあて尋ねれば、僅かに視線を下げ彼は押し黙る。
答えに困る時の彼は決まってこうだ、それは彼の持つ優しさとこの組織に不可欠な非人道さが合わさることで生まれざるを得ない葛藤がそうさせているもの。
任務を放棄してまで彼を動かした理由のわからない行いは人命救助、正義と言えよう。しかしこの組織にとってそれは謀反同然。
人として命というものを考えれば、彼のとった行動は褒められこそすれ責められる必要はないものだ。だから私も彼を責めることはしなかったし、サポートに回らせたロックオンや刹那の認識も事実私の抱くそれと大差ないものだった。
しかし、これは組織。
私にもやりきれないものがあるとは言え、指揮官として若い失態を諌めなければならない義務がある。
それが私にも彼にも手厳しいものであれど、私は同意を隠し権威を示さなければならない。
「……反省が足りない様なら、もう一週間の謹慎処分も」
仕方ないのよ、取り敢えず言葉の整理がついていないらしいアレルヤをしばし待たせ、それだけ言い残しコーヒーを買いに行くつもりだったのだけれど。
目の前を遮った黒と背中に回された温もりと窮屈さに、言葉は続かなかった。
抱きしめられている、そう認識する。
「嫌です」
流石マイスターを名乗るだけのことはある筋力は余程切羽詰まっていたのか、手加減無しに私を締め付け離してくれそうになかった。思いもかけなかった行動に思わず名を呼べば、更に力が篭り密着する。
息を詰めるように不自然な呼吸は耳元に伝わり、彼自身も自らの行動に戸惑っているらしかった。
「アレルヤ」
「嫌です」
「でもね、貴方が」
「貴女は酷い人だ」
「アレルヤ」
「また一週間もなんて、無理です。スメラギさん」
まるで駄々をこねる子供の様に私の言葉を遮り、アレルヤは腕に込める力を強めた。文字通り私が折れるのを待っているのだろうか、こういう時彼は歳相応に未熟者だった。
何が嫌で無理なのか、肝心な事を言えもしないで。
聞こえていますか、この胸中心で高鳴る早鐘が
(想いは募る膨らむ馳せる、たったの一週間貴女に会えないだけで)
(聞きたくなんかない、こんなにも愛しい貴女の奏でる残酷な仕打ちなど)
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