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アレルヤ(ハレルヤ)で20のお題
20/それが幸せ3/みか

アレルヤの本も買った。ティエリアの服も、刹那の林檎も買った。
ロックオンに連れられて巡った店でこれでもかと云う程に食料品を買い、到着した公園。
綺麗に晴れた空と、綿菓子のような白い雲。
緑の芝生にシートを被せたロックオンが、先にそこへ座って笑顔で手招く。
荷物を傍らに置いて腰を降ろせば、昼食だと大きなサンドイッチの包みを渡される。
ピクニックなんてこんな贅沢、本当にいいのかとアレルヤがきょろきょろ辺りを見回していると、刹那がジュースを取ってくれた。
大変だ、ハレルヤ。僕は充たされすぎて幸せすぎて、どうにかなって仕舞いそうだよ。
なにもかもがアレルヤの思い描く理想の『休日の午後』に、

「――下らない」

世界中のものを呪い殺さをばかりの怒りが篭められた、地を這う唸り声が呟かれる。

「おっと。ティエリア・アーデ、ラストフェイズは任務放棄か!?」

ロックオンは立ち尽くして動かないティエリアへ大袈裟に叫ぶと、挑戦的ににやりと笑った。

「黙れ。下らないと云っただけで、放棄するとは一言も云っていない。どうしていつもあなたは言葉を曲解するのか。言葉に含まれる意味そのものだけを解釈すればいいのでは?」
「下らないってことは、やる気なしってこと。放棄も同じじゃないか?」
「だからそうではないと云っている。下らないイコールやる気がないと短絡的に変換するのは止めて貰いたい。大体、買い物一つをフェイズに喩えるなど、趣味が悪すぎる」
「そうか?ティエリアならその方が楽しいだろ――いいから今日は座れって。飯食おうぜ」

ティエリアは、シートを軽く叩いて座るよう促すロックオンを睨み付け、隅っこに座った。
アレルヤがサンドイッチの包みを渡すと、引ったくって受け取る。

「――楽しいのはあなただけだ、ロックオン・ストラトス」

ああ。二人はとても仲良しだよ、ハレルヤ。

「――」
「なに、刹那」

怪訝そうに自分を見ている刹那に気付き、アレルヤは食事の手を止めた。

「――あれがそんなふうに見えるのか?」
「うん?」

延々とやり取りを続けるロックオンとティエリアは、とても楽しそうに見える。
自分はどうしてもあんなにテンポ良く言葉を紡げないから、少し羨ましい。
首を縦に振ると、ものの見方は色々あるなと刹那はアレルヤに林檎をくれた。
会話もなくぼんやりしながら、二人で林檎を噛る。
退屈だ。
同じく暇を持て余す刹那に、本を貸してくれと云われたので一冊渡す。刹那は、俯せに寝転がって読み始めた。
その様子をぼんやり眺めていたら、刹那が自分の隣のシートを叩いた。
寝ろ――と、云うことなのだろうか。真似をして、アレルヤも横になって本を読んでみる。
ロックオンとティエリアの、まだ仲良く議論する声がBGMだ。

「刹那が訊きに来たときの言葉、ティエリアは覚えてないのか?」
「――行きたい場所は何処だと問われたが、それに答えて何か問題でも?」
「そうそう。俺もそう云われた。行きたい場所、だから公園。買い物に行きたい場所、だったらまた違ったかもなら」
「元々の大枠が買い出しなのだから、その主旨を汲むべきだ。少し考えればわかることでしょう――あなたの云うことは総て詭弁だ」
「んー。ティエリアは、さっき自分で云ったことももう忘れちまったのかー。残念だ」
「なんのことだ」
「言葉に含まれる意味それそのものだけを解釈すればいい――だっけか?」

見えない何かがぶちっと切れる音を、刹那は確かに聞いた。
こんなとき普段ならば間に入る仲裁役の男は、暢気に林檎を噛りながら本を読んでいる。
ミッションに絡まない物事に頓着しないのか、単に鈍いだけなのか――面倒臭いが、自分がやるしかないようだ。今日はエスカレートさせる訳にゆかない。

「ティエリア・アーデ、おまえの負けだ。諦めろ」
「なんだと?」
「お節介と屁理屈で生きているようなこの男に、正面から向かっても時間の無駄だ」
「勝ち負けはともかく、その他には同意する」
「おーい、刹那。おまえはどっちの味方なんだ」
「――どっちの味方もしたくない」

刹那も仲間に入ったみたいだよ、ハレルヤ。
なんだか凄く盛り上がっているから、僕はきっと邪魔をしない方がいいね。

「刹那、林檎もう一個貰ってもいい?」
「ああ、構わない」

端から見れば険悪まっしぐらな三人をアレルヤは眩しげに見遣ってから、読書に没頭した。林檎が美味しい。
半ばまで進んだ頃には誰の声もしなくなり、アレルヤは本から顔を上げて様子を窺う。
驚いて見開いた瞳は、すぐに細められて微笑みを浮かべた。
ソレスタルビーイングが介入行動を開始して約二ヵ月。最近は大規模紛争がないとしても、ほとんど休みなしで動いているのだ。皆、疲れが溜まっていても不思議ではない。加えて、初めて来た南半球のこの国は気候も良く、ロックオンが絶好の昼寝ポイントだと云ったのも頷ける。

「みんな寝ちゃったね、ハレルヤ」
おまえも寝たきゃ寝りゃいいだろ――即座に返って来た右側の声に、アレルヤは首を振った。

「でも、四人とも寝て何かあったら大変だ。この場所はそうでもないけど、国自体の治安がいいとは云えないし」

アレルヤ、てめえは底無しのバカだな。
ちょっかい出す奴が来たら、俺が漏れなくぶっ殺す。
おまえが起きてると止めるからそれも出来ねぇ。とっとと寝やがれ。

「僕は寝ないよ。昨日はたっぷり休んだから、眠くないんだ。第一、そうなったとき君にそんなことさせたくない。」

ああそうかよ勝手にしろとハレルヤは黙って仕舞ったが、そこに居るのははっきりわかる。
隣では、刹那が丸まって眠っている。
背を向けたロックオンの髪が、太陽に透けて金髪に近くきらきらしている。
ティエリアの寝顔が見られるなんて、もう二度とないかも知れない。
アレルヤはその光景を心行くまで眺めた後、シートに頬をくっつけてまた本を読み出した――陽射しが暖かくて、身体が暖まる。
なかなか内容が頭に入って来ない。
ページをめくるのも億劫だ。
文字がゆらゆらと揺れて滲む。
動かしてもいないのに、何故か自分の指で表紙がぱたんと閉じた。

「退屈だなあ、アレルヤ。殺し合いもねぇし、こんな本もつまんねぇし」

すぐ傍に大切な人達が居て、何をしても退屈な午後。穏やかに時が流れるだけで、何もすることがない。
でも僕はハレルヤ、それが幸せだと思うよ――そう伝える前に、アレルヤの意識はゆっくりと暗転する。
ずっと昔から、こんな普通の時間を過ごしてみたかったんだ。


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あきゅろす。
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