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アレルヤ(ハレルヤ)で20のお題
20/それが幸せ2/みか

君はバカかと盛大に怒鳴って、ティエリアは部屋を出て行って仕舞った。それを茫然と見送り、アレルヤは溜め息を吐いた。

「何がいけなかったんだろう、ハロ」
「ワカラナイ・ワカラナイ」

ルビーみたいで綺麗な色だと思うんだけどな――首を捻っている一人と一機の部屋に現れたのは、今度は刹那だった。
真っ直ぐこちらへやって来て、躊躇いなく隣に座る。

「刹那?」
「行きたい場所は何処だ」
「行きたい場所?――ええと、明日のことでいいのかな?」
「ああ」

いきなり用件を切り出されてアレルヤは少々戸惑ったが、ティエリアとの会話の直後だったからどうにか繋がった。

「買い出しの場所は決まってないの?」
「だから今決める」

それにしても変な話しだ。
普通は、買いたいものがあって、行く場所を決めて、日にちや人選をして――それが、逆になっている。
刹那に云ってもどうしようもないことだけど、急に行きたい場所などと云われても思い付かない。

「僕はみんなと同じ場所でいいよ」
「駄目だ」
「駄目?どうして?」
「必ず一人一箇所だ」

いよいよ不審さの増す買い出しの様相を呈して来た。こんなこと、今までに一度だってなかった。
然し、それを問い質すべき相手は刹那ではない。
アレルヤは考えに考えた挙げ句――何も思い付かなかった。

「困ったな――他の二人にはもう訊いた?」
「訊いた。此処が最後だ」
「刹那は何を買うんだい?」
「適当に食べ物を買うつもりだ」
「ティエリアは?」
「服を買いたい、と」

食料品と衣類。
自分が無難なものを選べば、何処の地域へ行っても迷惑を掛けない買い出しが出来る。

「じゃあ、ロックオン」
「――公園」
「公園!?それって買い物じゃないよね――」
「俺にはわからない」
「うん。ああ、そう――もしかしたら、公園の中に店があるのかも知れないね」

公園へ買い物――ロックオンの考えることは、たまに全くわからない。
咄嗟に取り繕ったけれど、公園に売っているものなんてアレルヤには見当も付かない。
危うく三度目で、刹那を質問責めにする所だった。

「どうする?」
「僕は本でも買おうかな。もう読む本が失くなっちゃったんだ」
「――本、好きなのか?」
「セツナ!セツナ!オシャベリスル!」

アレルヤが答える前に、放置されて退屈げに身体を揺らしていたハロが刹那へ飛び込んだ。
受け止めた刹那は、ぱたぱたと耳を動かしてねだるハロをじっと見詰めている。
うるさいと放り出されやしないかと心配したが、杞憂だった。
喋り出したハロの話しを、頷きながら聞いている。意外に、ハロと刹那は相性がいいのかも。今日はまた一つ収穫だ。
その儘夕食を二人っ一機で仲良く食べ終わり、刹那は無言で出て行った。又、エクシアの所へ行くのだろう。
これで後は、ロックオンがハロを引き取りに来てくれるのを待つだけ。自室待機だ。
予定時間より30分遅れてアレルヤの部屋へ来たロックオンは、少し顔が赤かった。酒を呑んでいたらしい。

「ハロ。今日のミッション達成率は?」
「ヒャクパーセント!カンペキ!カンペキ!」
「そりゃ良かった。流石は俺の相棒、いい子だ」
「イイコ!イイコ!」

嬉しそうに叫んだハロはアレルヤからぴょんと跳ね出し、ロックオンの腕の中にすっぽりと収まった。拙く単語を並べて、一日を懸命に報告する。
その一言一言に頷いたり褒めたり微笑んだり――表情を変えるロックオンの様子を、アレルヤは目を細めて見守った。

「どうした、アレルヤ」
「――やっぱり、ハロはあなたの腕の中が一番似合うなと思って」
「こいつは俺の頼れる相棒だからな――だよな、ハロ」
「タヨラレテ・タヨラレテ」

突然座ってもいいかと訊かれ、自分達が突っ立った儘なことにアレルヤは気付いた。
もちろんですと返すと、ロックオンはハロを転がしてベッドに座る。自分は椅子を引っ張って来て、そこに腰掛けた。
断る理由は何もないのだ。羞恥が先に立って言葉に出来ないけれど、少しでも近くに居てくれるなら、嬉しい――あなたの傍にいると、心が軽くなるんです。

「ロックオンは何をしてたんですか?ミッション?」
「ある意味ではミッションより過酷な、ミス・スメラギの買い物エスコートと呑み相手。そうは云っても、ミッションよりは気楽なもんさ」
「買い物、ですか――」

おかしい。絶対におかしい。
どんなに買うものの量が多くても、二日に跨がることはなかった。
とにかく一日に纏めて、無駄な行動は控えるようにとつい最近云われたばかりなのだ。

「そう云えばアレルヤ。この前俺が持って来たあれどうした?」
「昨日で全部失くなりました。美味しかったですよ」
「そうか――」
「ロックオン?」

一瞬浮かんだ落胆の色。全部飲んで仕舞っては、いけなかったのかな。不安になって、ロックオンを凝視する。
ロックオンは哀しそうに――違う、何故か辛そうに微笑んで、アレルヤの頬を手の甲で撫でた。

「美味かったなら、また今度持って来るぜ――ああくそ、眠くなって来た」

ごろりとベッドに引っ繰り返り、こちらの目を見ない。明らかに追求をはぐらかしている。決して隠し事の下手ではない人が、今日はどうしたのだろう。
けれどロックオンが伏せていたいことならば、アレルヤは訊かない。必ず何か理由があるに違いのだから。

「此処で寝てもいいですよ。僕は邪魔しませんから」
「お言葉に甘えて――と、云いたい所だが、駄目なんだ。こいつ引き取って部屋に帰らないと」
「駄目?どうして?」

今日この言葉を何度云ったのか。
気の所為だとは思うが、自分一人が蚊帳の外に置かれている気がしてならない。

「俺の今日の唯一の指令は、一人で寝て一人で休むこと。まーったく、何処まで知ってんだか、あの予報士は」
「予報士?スメラギさんが何を知って――?」
「わからないか?こう云うことは止めなさい、だとさ」

腹筋だけで起き上がったロックオンは、アレルヤの腕を掴んで強く引っ張る。その儘手首を捻られ、為す術なくベッドへ倒されたアレルヤの上下は逆さまになった。
然し、天井は見えない。視界いっぱいに、ロックオンの顔が――瞳が。
今は青みの少ない、穏やかな深い緑。奥にほんの少しだけ、情欲の灯る蒼がある。
これはそう――距離の近さと体勢から考えて――これは恐らく――こう云うこととは、そう云うことなのだ。

「わ、わかり、ました――」

意図に気付いたアレルヤの体温は、隠しようもなく上がる。ロックオンは小さく笑うと、身体を起こしざまに掠めるくちづけをくれた。心臓が破けそうだ。
そしてロックオンは、耳まで赤いなとアレルヤを散々からかった後、ハロと帰って行った。
アレルヤは、一人になった。
明日の出発は朝8時。それまでは9時間もある。
もう読む本はない。甘い飲み物もない。
ベッドで膝を抱えた儘、アレルヤは身じろぎもせずただ時間を食い潰し続けた。

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