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めいん











彼は律儀に断りを入れてから、ベッドの上に腰かける。


アイリも小さく鼻をすすってからその隣に座る。

そして珍しいものを見るようにペンギンの髪や頬を好き勝手に弄り倒すのだった。



「少しは落ち着いたか」

『怒りは収まらないけれど』

「帰ってきたら、煮るなり焼くなりしていいぞ」

『じゃあ遠慮なく』



普段は寡黙な彼らがここまで饒舌になるのは非常に珍しかった。


視線を絡めて小さく笑うと、それからはしばらくまた無言になった。



気づけば、先ほどの雨が嘘みたいに止んでいて。
空は濃い群青に染まっていた。



(ローみたいな色)



ふ とそんなことを考えてしまう。



ああ、隙あらば脳内全部にあなたが蔓延る。




「……………空、」

『え?』

「船長みたいな色だ とか思っているのだろう」


不意にペンギンが口を開いて呟いた言葉はまさしく図星で。


彼女は黙って口を尖らせ、無言の肯定を示すしかなかった。



「その、お前は、船長が好きなのか?」

『ペンギンがキャスケットを想う強さほどじゃない』




ドガン!!!!!!!!


突然の派手な音に驚いてそちらに視線をやれば、つい隣にいたはずのペンギンがいない。

代わりに、派手に数メートル離れた本棚に頭から突っ込んでいた。



口は相変わらず真一文字に結ばれているものの顔は真っ赤だ。



キャスケットと同じような反応をした彼には、思わず笑ってしまった。



「何を言い出すんだ」

『図星』

「そんな、訳は、ない」

『じゃあ嫌いなの』

「そんな訳ない!」



1回目の そんな訳ない は苦々しげに。

2回目の そんな訳ない は即答だった。



落ち着こうと深呼吸をしてからゆっくりと立ち上がるペンギン。



アイリはちらりと視線を扉の外に配り、とある気配を察知した。



しかして、どうやらペンギンは気づいていないようだ。



『じゃあ、わたしがキャスケットを貰っていい?』

「な、」



柔らかく問うたアイリに、ペンギンが言葉をつまらせた。


だが少女は攻撃の手を止めない。



『好きじゃないのでしょう』

「ふざけるな」

『本気』



早速行ってくるね。そう言って立ち上がろうとすると力強く肩をつかまれた。



彼の手に込められた力は意外と強くて思わず顔をしかめる。



冗談の関与する隙もない眼光と低い声音が、彼女を貫いた。



「……キャスは、おれのだ」

『わぁイケメン。
どう?キャスケット。惚れ直した?』




アイリが笑うとペンギンが青ざめて。
キャスケットが真っ赤になってドアの向こうから顔を出した。



「えっと、悪ぃ、あの。
アイリを励ましに来たら、つい、聞いちまって」

『はい、後はお若い2人で』



冗談まじりにそういえば、尻目に恨めしげなペンギンと涙目のキャスケットがこちらを見ていた。


彼女は歩みを止めず、そのまま出ていった。




















 

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