めいん
8
「な、泣き止まなくていい。とにかく落ち着け、いいな?」
『あい……ぐずっ』
「ええと、まずだな。やっぱり泣き止め!」
『っ、!?』
彼はほとんど自暴自棄になり、何の前触れもなしにアイリを抱き上げた。
それから、まるで赤子をあやすように高い高いと揺さぶったりと。
いつもの口数の少ない彼からは到底想像もできない行動をする。
アイリも、流石にこれには驚いてついポカンと開いた口が塞がらなかった。
「い、いないないばぁっ?」
『なぜ疑問系?しかも、顔が見えてない』
そう言って、アイリはペンギンの顔を覗き込む。
ガラスの双眸が見たのは、モノクロの隻眼だった。
「っ!」
『いたい』
突然アイリが顔を覗き込むものだから、彼は驚いて彼女を落としてしまう。
また泣き出すのではないかと挙動不審になりながらも、さらに帽子を被り直す。
どうやら彼は顔を見られたくないらしい。
『どうして、隠す?』
「……………怖くはないか」
『どこに恐れを感じればいいの』
「不快にもならんのか」
『特に』
アイリが言うと、彼は何かを決心したように深いため息を吐いて帽子を取った。
彼女は驚きも、特になんの反応も見せずに彼を見つめ続けた。
「そこまで無反応だと、逆に傷つく」
『そう?……わーペンギン意外と老けてるなぁー』
「着目点はそこか」
少しだけ眉の根に皺をよせてから彼は彼女の瞳を見つめ返す。
漆黒の短髪、
白と黒の隻眼、
少し歳を刻んだ、端正な顔立ち、
右目の下の大きな傷。
ペンギンはただ、口を真一文字に結んだまま黙りこくる。
『白と黒、……落ち着く色』
彼女はどこか、うっとりとした声音で言った。
すると逆に彼が驚いた様に目を見開いてから、微苦笑するのだった。
「そう言われたのは初めてだ。
他の奴には言うなよ。見せたのは船長とキャスケットとお前だけだ」
秘密、だからな。
秘密
なぜか彼がそう言うと新鮮味を帯びたように感じた。
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