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めいん











ぎりぎり、ぎちぐちゅ。


皮膚を肉を、骨をも貫いたその白く細い指先から腕にまで赤い血が滴る。


しかし、彼女は一向にやめることなどせずにただ夢中に自分の胸をえぐり続けた。



『取り出さなきゃ』



痛みの、根源を。



彼女が自らを抉る中、扉が無遠慮に開いた。



「アイリー、朝だぞーって、」



ひょこりと、悪戯に顔を覗かせたキャスケットの相好が凍りついた。



「何、してんだ」



キャスケットの声で目を覚ました時に目の前に広がったのは布団に染み渡る赤。


彼女は素直に、薔薇の花びらが散りばめられているのかと思った。



「そのままで、絶対指抜くんじゃねえぞ!

今、止血するから……ええと、これでいいやもうっ!」



アイリの血で赤く汚れてしまったシーツを患部に当ててからキャスケットは部屋を飛び出して行った。











数分と経たずに船医が来た。



彼女は無事に手当てされ、大事には至らなかった。

しかし手当てされている間のその白銀の瞳はうろんと濁っていた。



何を問いかけても答えずに力なく座るその姿と容姿は、糸が切れた操り人形のごとく美しく儚い。



「はい、終わり」

『………』

「ねぇアイリちゃん、どうして、何と言うか、こう……自虐的というか自傷行為をしていたんだい?」

『………』

「アイリちゃん?まだ痛むのかい」

『………』

「アイリちゃん?」

『………―。』



彼女は今や、存在するだけになっていた。

何をするでもなく。
ただの殻と成り果てて。


船医は肩を竦めて、キャスケットを見た。

彼もまた困ったように首をひねったが、不意に彼女がようやく口を開いた。




『ローの、ばか』




その一言以来、彼女は何も喋らなくなった。










 

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あきゅろす。
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