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めいん












「アイリ」

『なに?』



突然、真剣味を帯びた声が聞こえた。


彼女もまた、一転した空気に合わせてローの次の言葉を待った。



「おれは、明日からしばらく居なくなる」

『…………いつまで』

「さぁな、ただ1日や2日程度じゃねぇことは確かだ」

『なんで』

「それは言えねぇな」

『………………、』

「安心しろ、少なくとも女の所にはもう行かねぇよ」



おどけたように肩を竦めてみせても彼女なニコリとも笑わない。



その薔薇色の頬を、つつきたくなるくらいに膨らませてただ無言で反論していた。


心なしか、そのガラスのような瞳には真珠サイズの大粒の涙が溜まっている。




それを見たローは思わず吹き出しそうになったが、苦笑いにまで止めておく。



やんわりと、その膨らんだ頬を撫でてなだめてもアイリは不服そうにローを睨む。



「大丈夫だ」



魔法の言葉を囁いて、肩を数回トントンと叩けば彼女の瞼が落ちる。



しかし、寝るまいとしているのか必死に目をこすっている手も握りしめて、低い声で囁けばカンタンに閉じた。



聞こえるのはもう、規則的な寝息だけ。



「さて、」



彼女が風邪をひかぬよう、そして起こさないように優しく布団をかけて立ち上がる。



『ろ、ぉ……』

「アイリ。まだ寝てなかったのか?」




不意に自分を呼んだ少女を再び寝かし付けようとしても、聞こえるのは見えるのは寝息と寝顔。



不思議に思い、首を傾げれば彼女は再び“ロー”と確かに呼んだ。



『お願い………ロー…。
行かない、で………わた、し、こわ……い…よ……』



寝言だと気づいた頃にはアイリの目尻からは涙が一滴二滴はらはらりと。



それを見て、無性にざわついた胸。




(一瞬でも、残ろうか と思ったおれは病気だろうか。)










「どこへ行くんですか」

「、ペンギンか」



部屋から出た途端に、まるで待ち伏せているかのように悠々と廊下に立っていたのはペンギンだった。



風呂上がりなのか、石鹸の香りがする。


しかし部屋着にも着替えず、相変わらず警戒強く防寒帽を深々とかぶっている彼には微笑がもれた。



「探し物を、取りに行く」

「探し物?」

「あぁ」



ペンギンは一度、言葉を濁らせたが再びローが次の言葉を紡ぐまで待った。


ローの返答はいつも無表情のペンギンでさえ驚きを隠せないもので




「“アイリ”を、探す」




そして彼は、闇へ溶けていった。










 

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あきゅろす。
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