めいん
10
『もう一度聞く。
長身で変わった帽子を被った男と、その隣にいた赤いドレスを着た女はどの部屋に入った』
カウンターにその低くて小さな身を乗り上げ、宿主に脅しをかけているかのように睨む。
ようやく自体を把握した男は何やら下卑た笑いを浮かべた。
それから嘲笑うように右手をひらひらと振ってみせた。
「嬢ちゃん、そういうことは大人になってからやりな」
アイリの相好が歪んだ。
「それにあれはどうみたって今はお楽しみ中だろう?邪魔しちゃ駄目さ。
まぁおれだってコレがありゃあ言わないことも、」
そう言って、ちらちらと金を意味するサインを作る。
要するにこの男は情報料が欲しいと言ってるのだ。
だが、生憎アイリは無一文な筈だし無論おれとベポだって財布を置いてきた。
イコール=船に帰れる という式がおれの脳内で立てられた。
しかしながらそれは悲しい程にこのトラブルメーカーアイリちゃんによって叩き壊されました エクスクラメーションマーク!
空気が銀に裂傷され、凍りつく。
『じゃあ、代金はお前の首と交換』
さらりと無表情でいて、かつ恐ろしいことを平然と言う彼女。
まさか と思った時にはもう遅くて。
宿主の喉元には鋭いナイフの切っ先が向けられていた。
なんつーもん持ち歩いやがる。人のこと言えねえけど。
「おいアイリ、面倒ごとは起こすなよ?」
『そんなヘマはしない』
ああさいですか。
残念ながら宿主の身の安全よりも海軍に追われることが心配なおれだが、あっさりと言い返されては黙るしかない。
シミのついた天井を仰ぎ、諦めようと半ば自暴自棄になる。
そんなおれらの心境も知らずにアイリは、部屋番号とその鍵を奪取したのだった。
(すんません船長。先に謝っときます)
これが本日2回目のセリフだったことに気づいて、思わず苦笑いが漏れた。
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