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めいん









『ここには。
まだわたしのことを知っている海軍がたくさんいるから、わたしは自由に動けない』



キャスケットに向けられたのは悲しそうな顔。


その肩が微弱ながらに震えていることは明白であった。



少女の俯く姿からは、彼女の感じている悲壮と畏怖が滲み出ている。



「……悪ぃ、朝に外へ連れていかなかった方が良かったか?」



そう問うたキャスケットに、アイリは静かに首を横に振った。



『楽しかった』



素直な言葉だった。

特にそれ以上の理由もそれ以下の理由もないし、他に妥当な語彙さえ見つからない。



そう言われたキャスケットは、始めはポカンと口を開けて惚けていたがやがてくつくつと笑いだす。




すると何を思い出したか突然クローゼットを漁り始める。


がさごそと、何かを探しているらしく腕を震い中身を掻き出す。

アイリはただその光景を黙って見ていた。




「よし、あった!」




彼は嬉々として、彼女の目前にずいっと白い何かを突きつける。


それは古びたキャスケット帽。




『……………汚い』

「黙れ」

『何?この物体。帽子らしきものにも見えるけど』

「正真正銘の帽子だ!」





苦笑いをしながら、優しくくすんだ色の帽子をパンパンと叩き、埃を落とす。


それを荒々しくアイリの頭に被せたのだった。



ニッと歯を見せて笑ってから 似合うな、と言ってぐしゃぐしゃと頭を撫でる。



彼女はただ呆然として目を瞬かせることしか出来なかった。



「こうしたら、誰もお前だなんてわかんねぇよ!
安心して外にも行けるだろ?」



そう言われて、壁にかかっていた小さなヒビのはいった鏡を見てみれば確かに自分ではない誰かがいた。



その人は不思議そうな目で、アイリを見ていた。




もう黒い粗末な服じゃない。

もう曇った瞳じゃない。



アイリは帽子を深く被りなおしてから鏡の中の自分に笑いかけるのだった。




『ありがとうキャスケット』





ありがとう
ありがとう


わたしを助けてくれて
わたしと出会ってくれて



ありがとう。














 

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