めいん
10
見ていられなかった。
己のしたことの罪悪感に、今にも潰れそうになっているアイリを。
このまま硝子のように砕け散ってしまいそうなアイリを。
見ているローは、息苦しさにも似た胸の痛みを覚えた。
「アイリ」
『ごめ、な、さ…ぁ』
「アイリ」
『ぁああ、ごめんなさい』
「アイリ…!!!!」
『っぁ、あぅあ、あ』
「アイリ!!!!!!」
ローが怒鳴るように彼女の名を叫べば、ようやく小さな身体がピクリと震え瞳に正気の光が宿る。
八の字に下げられた悲しそうな眉に、涙でぐしゃぐしゃになった顔。
気づけばローは、彼女を強く抱きしめていた。
「お前は見なくていい。この汚い惨状と汚い世界を。
おれが代わりに見てやる」
彼の胸板に抱きしめられ、アイリはしかとその左胸の心臓の音を聞いた。
生命を感じられないこの船のなかで、その音は言い表しようがないくらいに優しかった。
「泣くんじゃねぇよ。
お前のすべてはおれの物だ。許可なく涙を流すな」
『っく、ロー…』
「返事しろ」
『あい………っ!』
でもやはり、アイリは涙を止められなかった。
ごめんなさいの涙と
ローへありがとうの涙を。
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