めいん
6
「コックから聞いた。敵船はどこだ?」
アイリが海へ飛び込んでから暫時が経ち、ローを筆頭にしたクルーらが甲板へとやってきた。
キャスケットは無言で遠くに見える海賊船を指差した。
それから、各々に武器や大砲の準備をする彼らに静かに、しかし曇りなく言った。
「全員、戦ったら駄目だ」
予想だにしない彼のその言葉に、全員が手を止めた。
しかし真剣なキャスケットの声音に何か理由があるのだろうと、彼の2の次を待つ。
「どういうことだ?
……あと、アイリは何処にいる」
「敵船へ、戦いに行きました」
「1人で行かせたのか」
ローの言葉と視線に、怒気が混じった。
しかしキャスケットは黙って自分が着ていたつなぎのファスナーを少し下ろし、首を見せた。
そこにあったのは、薄いけれども確実に動脈を狙った場所にある切り傷。
「アイリからの伝言です。
『邪魔をすれば敵味方関係なく殺すから』」
その言葉と共に、悲鳴の合唱が聞こえた。
それは確実に男の物だったが、どこか布を引き裂くように甲高い。
敵船の方角に双眼鏡を向けて見れば、そこは凄惨としか言いようのない光景が広がっていた。
ローは双眼鏡を覗いてから視線を外し、嘆息混じりに呟いた。
「敵船の進路は、このまま此方に向かってる。
接触する前にアイリを連れ帰る。場合によっては援護だ」
双眼鏡を覗いた人間は、顔を歪めながら小さく返事をする。
それから全員武器をしまうのだった。
(かすり傷ひとつでも負ってみろアイリ。お前を叱ってやる)
ローは心の中でそう呟き、右手に担いだ長剣を強くにぎりしめた。
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