めいん
1
「ぁああぁあ……あああああああああああああっ!!!!!!!!」
「うるせぇぞ、キャスケット」
「あぁぁ『うるさいキャスケット』
キャスケットは床に伏せ、悲しみにうなだれていた。
この船では日常茶飯事なのか全員が各々の席に着き、当たり前のようにキャスケットを受け流している。
唯一その中で、彼を構ってあげた人間といえばローとアイリに限られるのだか。
2人共口を揃えて吐いたのは毒を含んだ言葉だった。
キャスケットはガバッと破竹の勢いで顔を上げて噛みついた。
「なんでお前ら平気でいられるんだ!人参だぞ?お前ら全員異常だっ!!!!」
「人参くらいでガタガタ騒ぐんじゃねぇよ馬鹿が」
ローが叱咤するが、キャスケットはめげずに涙を流す。
「人参くらいって……おれにとって人参は海軍大将よりも苦手な物なんですよ!?」
『料理長、包丁研いでる』
「ぎゃーっす!」
後ろを振り返れば、シャーシャーという不穏な音と共にコックが笑顔で包丁を研いでいた。
キャスケットはたちまち顔面蒼白になり、泣きながら席に着いたのだった。
「「いただきまーっす」」
朝のせいか、全員すこし眠たそうな挨拶をしてから食事に取りかかる。
そこへコックが、残さずに食えよと釘を刺すのだった。
今日アイリはキャスケットとローに挟まれるようにして座った。
向こう側にいるペンギンは無言で皿の上を片していく。
ローもまた然り。
しかしキャスケットだけは一人、人参を後回しにして他の物を食べているのだった。
『そんなに、嫌なの?』
あまりに人参を忌避するキャスケットにアイリが聞いた。
「食ったら分かる」
意気消沈し、横目でこちらを見やりながら彼は沈んだ声を出した。
ここまで彼が嫌がるものだ。
アイリもその人参と呼ばれたオレンジ色をした物を食べることにした。
フォークで刺して、しばし眺める。オレンジの個体に特に異常は見られない。
においを嗅いで、口に運んだ。
舌と顎を駆使して噛み砕いて嚥下した。
『キャスケット』
「なんだ、こんなものも食えないってお前まで馬鹿にするのか?ああいいさ存分に貶せ!」
挙句の果てに彼はテーブルに突伏し、ぶつぶつと不平をもらす。
ローはそれを笑うかのようにわざとらしく人参を口に運ぶのだった。
『わたし、ニンジン嫌い。
一緒に逃げよう』
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