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めいん










「ったく。ほら、頭拭け」



船長室に入って早々、アイリは顔面にタオルを叩きつけられた。



眉間に皺をよせながらもおとなしく長い髪についた水滴をタオルで拭き取る。


しかし、やはり腰の長さまである髪を拭くのには悪戦苦闘してしまう。




ローはその姿を見て嘆息すると、彼女からタオルを奪い自らが拭いてやるのだった。



アイリは慌てて自分でやれると言ったが、彼は聞く耳を持たなかった。



『………優しいんですね』

「あ?」

『た、タオルの感触が優しいんです。勘違いしないでください』

「言葉変だぞ。しかも勘違いってなんだ」



ん? と意地悪く笑ってやればアイリはどもってしまう。



『と、ととっトラファ、ルガーさんが優しいと言った訳ではありませんから』



咄嗟に思いついた言い訳は、自分で墓穴を掘っているようなもの。


アイリは半パニックに陥っているため、気付いてはいないが。




ローはくすりと笑い、彼女の頭をぽんぽんと撫でてやる。


すると頭を撫でられたのが不思議なのか、目をぱちくりとさせた。



そんなアイリに愛しさを覚えるローだが、彼のその感情にはまだ名前はついていないのだった。




「おれには敬語なのか?」



不意に耳元でぼそりと囁かれれば、その甘い吐息に背筋が震える。


アイリは暴れだす心臓をなんとか黙らせようとした。
無理な話だったが。




『え、えぇ。流石に船長に対しては敬意を払わねばなりませんから』

「しかもファミリーネームで呼ぶのか。
トラファルガーさんなんて、まさか仲間にそう呼ばれるとはな」

『ご主人様は嫌だと申されましたので』

「あぁ。だが、」



激しく肋骨を叩き打つ心臓に、静まれと念じるアイリ。


彼と自分の距離はさほども開いていない為に、このうるさい鼓動が聞こえてしまうのではないかと不安になった。



「お前はローと呼べ。
キャスケットに対しての話し方みたいのでいいから敬語もつけるな」

『しかし………』

「お前に拒否権はねぇよ」



はい、終了。
最後にまた頭を撫でて彼は立ち上がった。

少々強引な彼の話だが、アイリは顔に集中した熱が離れない。



彼の触れた場所も
耳元で囁かれた声も。


全てが熱かった。










 


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