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めいん










まだ完全に乾ききっていない長い髪からは、彼女が走る度に水滴が飛びだし床を湿らす。



拭いていなかった裸足も、歩を進めると小さな小さな足跡をつくって行く。



木製の床は水をどんどん吸い込み、たくさん彼女の軌跡を描いた。




『……はぁっ……っは…』



白いつなぎを握りしめて。


肺が、咽が焼けるような痛みを感じようがアイリはがむしゃらに走った。



ただ、ありがとう を伝えに。




『……!』



アイリが勢いよく廊下の角を曲がったところで、向こうから出てきた誰かとぶつかった。



彼女の軽い体はいとも簡単にバランスを崩し、尻餅をついてしまう。




「あ、悪い。大丈夫……ってアイリ?」

「気をつけろ。廊下は走るな」

『キャス、ケット、ペンギ、ン』




タイミングの良い所に、この2人揃って現れた為彼女は笑顔を見せる。



喉が悲鳴をあげたが、彼女はお構いなしだった。



それから、手にもっていたつなぎを高々と掲げて、『手間取らせてごめんなさい!?』

「何で疑問形なんだよ」

『違う。ごめんなさいという言葉は謝罪につかうもの。
感謝は、確か……』



少し、首を傾げて脳内で言葉を検索しているらしい。


キャスケットとペンギンは、互いに顔を見合わせてふと笑った。




『礼を言う!』

「惜しいな」



バッと顔を上げて、傲然と言い放つアイリにペンギンが笑う。



キャスケットはくすりと笑い、しゃがんでアイリと目線を合わせる。



それから彼女に一つの言葉を教えた。



「感謝の気持ちを伝えたいなら“ありがとう”って言葉なんだぜ?」

『感謝のことばは、ありがとう』



彼女は小さく復唱する。

どうやらそれは耳慣れない言葉らしく何度も何度も繰り返してから、



『わたしに、わざわざこれを作ってくれてありがとう!』




初めてみたアイリのその向日葵みたいな笑顔に2人が癒されたのはここだけの話。












 


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