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めいん










「悪いがまだ、お前の部屋の用意がしきれていなくてな。
今日は我慢して此処で寝ろ」

『……………、』



時計はすでに10の字を刻んでおり、おれはアイリに「子供は寝る時間だ」と言ってベッドへと追いやった。



の、だが。



『嫌です』



意外にも、アイリはきっぱりと断りきったのだった。

これには流石に面食らってしまったが、すぐに平常心を取り戻して問い直す。



「何が不満だ。
確かに今は少しちらかっているが……、一応綺麗に整頓したぞ」

『わたしが心配なのは、貴方の寝床です』

「あ?」




即座に言い返され、おれがつい戸惑ってしまいそうになる。


アイリは、くるりと一転しておれと正面きって向かいあう。


ベッドの上に立っている彼女だが、おれの身長にはまだ及ばずに見上げる形となっていた。




『ここは、船長室です』


そう、確かにおれが連れてきたのは船長室、つまり自分の部屋だ。



彼女はハキハキと一語一句区切るように続ける。



『わたしが此処で寝たら、貴方はどこで寝るのですか』

「一応、ソファの、予定だったがな」

『では、わたしがソファで寝ます』



初めてこの強情な少女に呆れに似た感情を抱いた。

しかしそんなことは気にもせず、彼女はソファに猫のように体を丸めて寝転がった。



『恩人を寝床から追い出すなど笑止千万につかまります。

蜘蛛であろうが鼠が居ようが。はたまた、立っていても睡眠をとることができますので。
わたしに構わず、ご休息を』




一体何が、
何が彼女を、こんなふうにしてしまったのだろうか。




彼女が、もしごく普通の家に産まれていたら。



たかがオムライスひとつに感動することなど無い。

暖かな布団にくるまり、楽しい夢を見るのだろう。



胸が傷い。



その感情の名を、おれはまだ知らなかった。







 

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