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めいん















気づけば走り出していた。












始めて、抵抗らしき抵抗をしたことにアイリ自身が驚いた。

しかし、それよりも視界の端に捉えたドフラミンゴのほうが滅多に崩すことのない表情を歪めていたことが一番驚いた。




走らなきゃ、はっ、し、らなきゃ。





弾丸がペンギンの頭にめり込むより早く、彼の命の灯火が消える前に。



彼女は脚の腱が切れるんじゃないかというほど必死に、必死に走った。

これ以上ないほどに地を力強く蹴って筋肉が限界を訴えようが走った。




間一髪とは正にこのことか。




キャスケットの撃った弾はペンギンの帽子を撃ちぬいて消えた。

アイリはほぼ雪崩れこむようにしてペンギンへ覆い被さり、止めていた息を大きく吐き出した。




『っは、ァ、っ……!』

「おい、」




ペンギンが上半身を起こして彼女の顔を覗きこんだ。



その刹那だった。




バキッという骨がぶつかり合う音と、短く低い唸り声が聞こえたのは。




アイリの拳ががペンギンの頬を撃ち抜いた音だった。



遠慮や配慮、考慮に思慮など一切感じさせないその拳はあのペンギンを昏倒させるには十分なほどだったらしい。


切れた唇の端からは折れた歯の欠片さえ見えるのだから、冗談じゃないことは明瞭だ。



『………申し訳ありません。ドフラミンゴ様』

「ぁン?」

『もう少々、お時間を頂戴いたします。
……なるべく早急にこの一味を片付けますので』

「アイリ、?」




そう言って立ち上がった彼女の瞳は、氷よりもずっと冷たくて。



地の果ての夜空よりもずっと暗いものだった。




ローは目の前が霞むのを感じた。




目の前の少女は、出会った時のようにただただ機械じみた表情で彼の誇りを脱ぎ捨てたのだから。

そうして裸のままドフラミンゴの前に恭しく膝まづいたその背には。









ドフラミンゴのマークが彫られていたのだから。







「っぅぐ、……ぇ…ぁ」



胃の中の物が一斉に逆流してきて、彼は身体をくの字に曲げた。



込み上げてきた胃酸が喉をじりじりと焼き、堪えきれずに嘔吐してしまう。




どうして何故?










それだけがローの脳内を占拠していた。













芝居かとも考えた。



彼女は本当はおれらを助けるがために一芝居うったのかとも、もちろん考えた。




しかし目の前で次々と容赦なくクルーを一人のこらず倒していく彼女と、都合よく構成された願望は一致しなさすぎた。



はじめは戸惑ったクルーだが、本気でやらねば殺られることに気づいたらしく手加減なしでアイリにかかっていく。




しかし彼女はそれを、ちょい と右腕を動かしてしまうだけで済ませてしまうのだから。




ミスターもペンギンもベポもキャスケットもみんなやられた。





『残りは、お前だけ』

「…………アイリ…?」

『違う。
わたしはNO.119。ドフラミンゴ様の所有物であり人工的に造られた奴隷』

「違ぇよ。……なぁ、アイリ」

『違う。
わたしはNO.119。ドフラミンゴ様の所有物であり人工的に造られた奴隷』

「んな格好じゃ寒ぃだろうがよ……服くらい、着ろよ」

『違う。
わたしはNO.119。ドフラミンゴ様の所有物であり人工的に造られた奴隷』

「お前それ気に入ったんだろ?
キャスケットとペンギンが一生懸命作ってやったんだからな……」

『違う。
わたしはNO.119。ドフラミンゴ様の所有物であり人工的に造られた奴隷』


「明日のランキング戦はどうするんだ?
お前、勝算あんのかよ」

『違う。
わたしはNO.119。ドフラミンゴ様の所有物であり人工的に造られた奴隷』

「なぁ、なあ…………っ!!!!!!」

『違う。
わたしはNO.119。ドフラミンゴ様の所有物であり人工的に造られた奴隷』

「何でだよぉおぉああ!!!!!!!」














































「お前のことを愛してるのに」

『違う』



蝋のような頬を、涙が一筋駆け落ちた。



『わたしはNO.119。ドフラミンゴ様の所有物であり人工的に造られた奴隷』










 

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あきゅろす。
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