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めいん












彼女が走り去った後の食堂にて。


そこは依然として、ミスター以外の皆が酔いつぶれているために凛とした静寂に満ちていた。




彼はただ、上半身を起こしたローを横目にグラスを傾けた。

嚥下する度にアツい酒が喉をジンジンと焼くような感覚に陥りながらも、これに中毒する。



熱さも、喉元を通りすぎればわからなくなる。



「なあ、ロー」

「船長と呼べ」



痛みの月光に照らされながらも、彼はひどく悲痛でいて今にも手折れそうな声をだした。



ミスターはおどけたように字面だけの謝罪を述べてから、空になってしまったグラスに酒を注いだ。



赤い液体を除き込めばただそれは透明の中に収まり、対象的に群青に染まる空とローを微妙な色合いに屈折させた。




「聞いていただろう?
アイリちゃんは傷ついている」



ミスターが、傷心したような哀愁漂う表情を浮かべた。


しかしただローはその短髪を煩わしそうに、くしゃりと掴んで眉間に皺を寄せた。



「……酒、」

「なあ。彼女、君に嫌われることだけをただ恐れとしているんだよ」

「おい、聞こえなかったのか。
おれにも酒を寄越せ」

「逃げんな。
てめえがそうやっていつまでもぐずっているから、あの子が泣きを見るんだ」

「うるせぇ」

「いつまでガキ気取ってるつもりだ?」

「うるせぇんだよ!!!」

「惚れた女をいちいち泣かせてんじゃねえよ!」




先ほどのようにローは怒りを露にして椅子を蹴り飛ばした。


しかし椅子は先ほどと違って、頼りなくただバランスを崩して床に伏せただけであったのだから。



ミスターも負けじと、彼を真っ直ぐ見据えて声を張り上げた。


しかし揺れるローの瞳を見て嘆息し、今度は小さく呟いた。




「あの子はもう駄目だ。
……お前がいないと、駄目になってる」

「っ、」

「忘れろと突き放しても、知らぬフリをしようが彼女は永遠にローを愛し続けるさ。
お前を人生の第一と考えて、自分のことなんて何一つ省みないでね」

「んなこと、」

「“ない”と断言できるわけはないよ」

「寧ろ、今の彼女を見れば誰でもわかる。火を見るより明らかだからね」

「そしてローも。
……彼女なしの世界で君は生きていけるのかい?」



ローは苦虫を噛みしめたような顔をしてから、やがてぽつりと吐き捨てた。




「生きていけるわけ、ねェだろ……」


ローの声音は、普段の彼からは想像できないほどあまりにも痛々しすぎて。



ミスターは苦い表情を浮かべるしか手だてはなかった。




「(何故、
彼からの恋はここまで痛いのだろう)」












 

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あきゅろす。
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