めいん
2
殴られたミスターは痛いと言って頬を擦っていたが仕草がわざとらしすぎて、あまり痛そうにはみえない。
本気の手前くらいの結構強い力で叩いた彼女は、改めてミスターがただ者ではないことを実感した。
「それにしても、プリンセスは一体何の実を食べたんだい?
魚人間がモチーフかな」
『さかなにんげんってなんか気持ち悪い』
相変わらず冗談めいた口調のミスターに、アイリは苦笑いを浮かべてみせた。
彼はうんうん、と腕を組みながら彼女が食べた実の名前を考えた。
「魚だから……サカサカの実、とか?
語呂が悪い上はになんだかゴキブリの効果音みたいですね」
ネーミングセンスの悪さは自他共に認めているのだろう。
自らが言ったその言葉にミスターが首を傾げてみせるのだから、思わずアイリはその仕草に笑ってしまった。
それから、答えあわせを求めた彼に模範解答を述べてみせた。
『冗談。
“ヒトヒトの実 モデルマーメイド”』
「あっは、人魚に能力者か。随分と高く売れそうですね」
『借金のことなら今すぐご相談を。身売りしてきます』
右手で電話の形をつくり、フリーダイアル……などと吹聴してみせるアイリ。
ついでに『みんな、今までありがとう』なんて言って涙を拭う仕草までする。
ミスターはそれが面白く、ツボに嵌まったのか目尻に涙を浮かべるほど豪快に笑っていた。
「はははっ!
ま、ローがそんなの許す訳もないんだけどね」
そうカラカラと笑いながら言ったミスターは、未だに彼女の膝で寝息をたてるローの頬を軽くつねった。
仲間に向けるような愛情は感じとれるものの、ミスターからは船長に対する敬意などは一切ないようである。
間抜け顔 だなんて言ってローを指差し笑うミスターを見つめてアイリは思考を巡らせる。
ペンギンがミスターを嫌いな理由、もうひとつ発見。
ペンギンは、まるでローを崇拝するかのように恭しく従順である。
そんな彼はその崇拝している男をからかうミスターが嫌いであり、また苦手としているんだな。と。
脳の隅でそんなことを考えながら彼女もローの頬をつねった。
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