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めいん
10






目が覚めた。



どこかで気を失ったのであろうおれは、いつの間にか自室へと運ばれていた。



何故か猛烈に暑くて、気だるげにも上半身を起こす。

何故か3枚も4枚も重ねられた布団を見て、暑さの原因はコイツだと悟った。



額にはびしょびしょのタオル。



何の嫌がらせだ とも思ったが、こんな不器用なことができるのはただひとりしかいない。




キャスケットだ。



…………いや、嘘だ。

キャスケットでももう少しちゃんとした看病の仕方を心得ている筈。




おれは近くにいるであろう、この不器用な看病をした中心人物……アイリを探した。




しかしどこを見ても彼女はいない。




落胆にも似た感情を抱き、ついつい肩を落としてしまう。



アイリがいないだけでこんなにも落ち込むとは、自分でも思わなかった。



おれは軽く舌打ちをしてから、汗を流すためにバスルームへ向かう。


当然、この怪我だったらしばらくは入浴禁止だがこの船の船医も船長もおれだ。

ドクターストップは無しの方向で。




包帯も全部とって、タオル一枚でバスルームへと足を踏み入れる。




刹那、驚愕した。




何故かバスタブから2本の脚が生えているのだから、思わず目を疑った。


よくよくその小さな足を見れば持ち主はいとも簡単に分かった。



「……アイリ?」



マジで何してんだこいつ。


大笑いするというよりも、呆れたといったほうが正しかった。




しかし、彼女の手の平に握られているのはびしょびしょの濡れタオル。


未だ、キンキンに冷やされているそれを決して離さぬようにして眠る彼女。



時折、その上品な形の唇から漏れる言葉は何ともおれを破顔させるもので。



あ?教えてやんねぇよ。



おれだけが知ってりゃいいから。




おれは頬を弛緩させたまま彼女を抱き上げる。


少しだけ傷に響いたが、そんなことも全然気にならないくらい幸せな気分に浸っていた。




『……んゅ……ろぉ?』

「あぁ。起きたか」

『なぜ、はだか?』




彼女は眠たげに目を擦りながら、率直な疑問をぶつけてくる。


まぁ、目が覚めた途端に裸のおれがいたらそりゃ驚くか。なんて自嘲の笑みを浮かべるしかなかった。

『へんたい……』

「そんなに襲われてぇのか」

『断固拒否。
怪我人は黙って寝て、いな、きゃ………』




いきなりフリーズする彼女。



おれは少しだけ訝しんで首を傾げればアイリは真っ青な顔をして叫んだ。




『ロー!け、怪我してる!のに、起きるダメ!!!!
ね、寝なきゃ、めっ!あっぷ!!!』

「いや、お前言葉ヘン……『寝てなきゃ!駄目なんだ!ってばぁ!』

「その、あ、汗かいたからシャワーに入りたいんだが……」

『シャワーなんて傷ぱっくりするでしょう!グショグショになって黄色い液でてきてもしらないよ!!!?』




駄目だな、こりゃあ。


完全に取り乱したアイリは目尻に涙を浮かべながら、おれをベッドに戻そうとする。


つか、黄色い液とかリアルだな。




あまりにアイリが必死なのでおれは渋々、シャワーを諦める。



しかも、何故か服を着させてもらえないままベッドに戻された。

本当にアイリが本末転倒なんだな と確信せざるを得なかった。




それと共に、おれのことでここまで必死になってくれるアイリがどうしても愛おしくて仕方がなかった。






やべぇ。






ハグだけじゃなくて、キスもしたいなんて考えたおれも本末転倒。










 

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