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めいん




しかし、あまりに急すぎて唇の動きを読んでいる時間さえなかった。



「っぶぶぉあっ!!」



アイリは待つという言葉なぞ知らぬといった風に、ローを含めた全員を一気に抱きかかえる。

そして船へ向かって、その魚の尾びれで力強く水を蹴る。



口を開けていた中にいきなり海水が流れこんだのであろう、キャスケットは苦しそうに泡を吹いていた。



『(ローがんばって)』



本物の魚など目ではないほどの速さ。


瞬きをしている間に、船を停泊させていた浜辺まで着いたのだから、全員が驚きを隠せない。



『はや、く……!止血、しなきゃ』



人間の姿に戻ったアイリに一喝され、全員が我に返る。



大急ぎでパーカーを脱がせて、傷口を押さえながらローを船内へ連れていく。



アイリはただひとり、浜辺に残って祈った。



彼女が嫌いとする“神”に懇願するように胸に小さな十字を切ってまでして。



どうか、彼が無事であれ、と。






気がつけば、既に日がその姿を水平線の向こうから覗かせていた。



何時間も経過しているのにも気づかないくらい、祈りに没頭している自分を嘲笑してから立ち上がる。



膝についた砂をぱんばん、と払う。



服も、海水と砂のせいでカサカサにはなっているが完全に乾ききっているのだからもう笑えない。



ここまで依存している自身に驚く。



どうかお願い、側にいて、離れないで。



そう、ずっとずっと祈り続けていたのだから。




「アイリ、」



不意に聞こえた、三半規管を甘く揺らす、とろけるようなテノール。



目映い日光に目を細目ながらも後ろを振り向けば、そこには依存の中心人物が。




「心配かけたな」

『ロー……ろ、ぉぉ…!』

「泣くな。顔、ぐしゃぐしゃだぜ?」

『ろぉ……っ!
っく、ぇぐ、だってロー、しんぱ、い、した!
死んじゃいそ、だから……!わた、わたし、』

「はァ?」



涙腺が崩壊してしまったかのようにとめどなく溢れ出す涙を止める手だてもなく、アイリはただ嗚咽を漏らす。



ローはいつもより顔色は悪いし、全身が包帯でぐるぐるだったけれども。



いつもみたいに、笑った。



「死ぬわけ、ねぇだろ。
おれは、絶対に海賊王になる男なんだから」

『ひ、っぅぐ、ぅえっ、』

「お前を、置いて逝くなんてことできるかよ」

『っぅ、……!』




「おれが死ぬ時は、お前も殺してやる」



うん、ロー。
貴方が死ぬ時はわたしを殺して。



わたしが先に死ぬ時は、貴方はまだ生きていなければならないけど。









 

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あきゅろす。
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