めいん
7
ローは、既に半分原型を留めていないそれを見下ろした。
どくどくと、未だに流れる血には温かみも新しいタンパク質もない。
床の上に赤く黒くドロリと広がってゆく。
彼はただその様を見つめた。
『ロー、』
ややあって聞こえた、鈴のような麗しい声で、ふと正気に戻る。
慌てて後ろを振り向けば、そこには安堵の笑みを浮かべているアイリが。
ローは思わず、柄にもなく駆け寄ってその小さな身体を抱きしめた。
暖かくて、柔らかくて優しくて。
愛しい。
彼女もまた、ローの腕の中でその暖かみを噛み締める。
「怪我はねぇか?」
『わたしより、ローの心配をして。止血しなきゃ』
彼女に打撲跡や切り傷などは見当たらなく、ローは一安心する。
すると緊張が解けたのか脚からどんどん力が抜けて行き、壁にもたれかかってしまう。
目の前も鮮やかな七色に染まり、右も左も分からなくなった。
『貧血を起こしてる。
少しは、自分の身体も省みて』
テキパキと止血作業に入りながら説教垂れる彼女。
その姿が、世話もののペンギンと被って見えて思わず苦笑いが漏れた。
アイリはちらりと死体に一瞥を投げて呟いた。
『ばかみたい』
「あ?」
アイリの言葉に、ローは眉を寄せて聞き返す。
彼女の声は、心なしか震えているようだった。
『なぜ今までただ従順に従っていたんだろう。
やろうとすれば、きっとわたしは逃げられたのに』
後悔と概念の混じった声音。
ローはきつく縛られた腕の痛みに小さく呻いてから、答えた。
それは一人言のような呟き。
「お前が奴隷じゃなかったら、おれらは出会えなかった。
そう思えば、お前が奴隷で良かったのかもな」
良いわけがあるか。
そう思って口を尖らせるが、ついそれもそうかと納得してしまうアイリ。
なんだか悔しいから、かなり手荒く応急手当てをした。
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