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めいん











ローは、既に半分原型を留めていないそれを見下ろした。



どくどくと、未だに流れる血には温かみも新しいタンパク質もない。
床の上に赤く黒くドロリと広がってゆく。


彼はただその様を見つめた。



『ロー、』



ややあって聞こえた、鈴のような麗しい声で、ふと正気に戻る。



慌てて後ろを振り向けば、そこには安堵の笑みを浮かべているアイリが。



ローは思わず、柄にもなく駆け寄ってその小さな身体を抱きしめた。

暖かくて、柔らかくて優しくて。



愛しい。



彼女もまた、ローの腕の中でその暖かみを噛み締める。



「怪我はねぇか?」

『わたしより、ローの心配をして。止血しなきゃ』




彼女に打撲跡や切り傷などは見当たらなく、ローは一安心する。



すると緊張が解けたのか脚からどんどん力が抜けて行き、壁にもたれかかってしまう。

目の前も鮮やかな七色に染まり、右も左も分からなくなった。



『貧血を起こしてる。
少しは、自分の身体も省みて』



テキパキと止血作業に入りながら説教垂れる彼女。

その姿が、世話もののペンギンと被って見えて思わず苦笑いが漏れた。



アイリはちらりと死体に一瞥を投げて呟いた。



『ばかみたい』

「あ?」



アイリの言葉に、ローは眉を寄せて聞き返す。

彼女の声は、心なしか震えているようだった。



『なぜ今までただ従順に従っていたんだろう。
やろうとすれば、きっとわたしは逃げられたのに』



後悔と概念の混じった声音。



ローはきつく縛られた腕の痛みに小さく呻いてから、答えた。


それは一人言のような呟き。



「お前が奴隷じゃなかったら、おれらは出会えなかった。
そう思えば、お前が奴隷で良かったのかもな」



良いわけがあるか。
そう思って口を尖らせるが、ついそれもそうかと納得してしまうアイリ。



なんだか悔しいから、かなり手荒く応急手当てをした。












 

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