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めいん










螺旋階段。
ぐるりとねじまがって上に伸びゆくそれを駆けていく。



先など全く見えない。むしろこれにゴールがあるのかさえ怪しくなるほどの遠さ。



日常から体力をつけるべきだ。そう言って造られたのがこの螺旋階段。



最上階には、貴重な資料や機密が置かれているため、対侵入者用の体力を削ぐ役割も兼ねている。



そんな中で、彼、トラファルガー・ローは悠々と笑っていた。



寧ろ、爆笑。



「フフ、まさか……仮にも自分の家で迷子になるとはな?“殺戮兵器”の底が知れるぜ」

『うるさい』



ローのからかいに、彼女も苦々しく言い返す。

しかしそれで彼が折れる訳がない。
更にカラカラと愉快そうに笑ってみせるのだった。



アイリはただ口を尖らせて無言のまま階段を物凄いスピードで駆け上がる。

彼も遅れをとらぬよう、その後を着いていく。



しばらく不機嫌そうな顔をしていた彼女が、ふいに表情を崩した。
それも、悲しげに。



何かに気づいたように突然立ち止まると、キョロキョロと辺りを一望する。

それから、小さく。
今にも消え入りそうな声で呟いた。



『わたしは、ずっと牢にいたから外なんかしらない。でも、ここ覚えてる』



悲観、焦燥、憤怒。
どれとも言えぬ、苦しそうな表情を浮かべて彼女は言う。



「アイリ?」

『もう少し、もう少し…!』

「おい、アイリっ」


突然立ち止まったかと思うと、突然走り出す。

突然黙りこくったかと思うと、突然叫び出す。



今は潜入中のため、なるべく静かにいたかったが今はそれどころではない。



彼女の悲鳴に駆けつけた海軍たちを確実に仕留めながら後を追う。


海兵なんて怖くない。
今、ローにとって心配なのはアイリの身だけ。



『行かな行かない行かないと……怒られ、る』

「アイリ、止まれ!」

『行かなきゃ……っ!』



ローは彼女の腕を掴み、捕獲に成功する。



しかしアイリの瞳は始終ずっと右往左往に暴れて、完全に錯乱しきっていた。



彼女に何があったのか、
そんなことを知る由もない彼はただアイリの言葉を待った。



彼女が発した言葉に、聞かなければよかったと後悔するには既に手遅れだった。



『はな、し、離し、て。わたしは、早く行かなきゃ怒られる』



そう言って、アイリはローを言葉で突き放す。



『痛いのは嫌怒られるのは嫌気持ち悪いのは嫌殺されるのは嫌……』



『あ の 牢 に 帰 ら な き ゃ 』




(何言ってんだ?)

(おれ以外にお前に帰る所なんてないだろ)










 

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