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めいん








彼を押さえつけるアイリの腕もほどけた所で、半身ずぶ濡れのまま身体だけ起こす。



帽子とパーカーを出来る限り絞って海水を出した。

しかし完全に乾く訳じゃないのでまだ半分力が抜けていて気分が悪いのも事実。



『ばかロー』



口を尖らせたまま発した言葉はただの罵倒。



『ばかあほどじまぬけどてかぼちゃ、もふもふ人間ロリコン変態気違い狂人』

「後半は否定させてもらう。といいたいが全て否定する」

『くたばれ』

「断る」

『独りにされた』

「船員がいるだろ。
キャスケットにペンギンにベポだって」

『ロー、が、いない』



不意に彼女が見せたのは、くしゃくしゃの顔。



『ローが、いなきゃ、意味なんかない……』



ローはその声を聞いていられなくなって、深くため息をついた。



「……悪かった。だから泣くな」

『泣いてなんかない』

「泣いてるだろ」



ローが目尻の涙をすくうと、アイリは完全に涙腺が緩んだのか。

とめどなく流れ落ちる涙を呑みながら「だって、」と零した。



『だって、だって!』



ぽろぽろぽろぽろ。
彼女のその瞳から流れ落つるは大粒の涙。



一際大きな嗚咽を漏らすとその場に腰から砕けてローの上に座り込む。

そのせいで彼は再び砂浜に押し倒される羽目になったが。



『もう嫌!わたしは人形だ、感情なんかない!!
心なんか下らない!な、のに、お前のせいだ!!』



感情がままに劇昂する彼女を、ローはただ目を細めて見つめていた。



『お前といると、わたしがおかしくなるんだ!!!!!
わたしが、わたしでなくなる!!下らない情に流されて、!』



アイリが、小さく息をついた。


嫌悪と憎悪と悲壮と戸惑いの入り混じった瞳は、やがて更に涙の輝きを増す。



『……苦しいよ、ロー…』



ローは、濡れた彼女の頬に優しく手を添えてみせる。

それと比例してその細い肩は過剰なほどに震えた。



涙で溢れている双瞳がローを見つめる。


押し倒された時に打った頭がガンガンと痛んだけれで気にしない。



「アイリ」

『………なに』

「悪ィけど、おれの為にもう少し苦しんでくれ」



彼女を苦しみから解放することなんてできない。

だって彼は、恋慕に苦しむいじらしい少女が愛おしかったから。



ローの言葉に驚いたのか、アイリはしばらく呆けてみせてから不敵に笑う。


それから敬礼というオプション付きでおどけた。


『いえっさー、キャプテン』

「イイ子だ」

「『ところで、その死体は?』」



互いに、その傍らに転がっている死体を指差して言った。


それから笑う。



ごめんなさい、死者。
もう少しだけ愚弄させて。











 

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あきゅろす。
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