めいん
4
『っ……!―――!!!!!』
月よりも美しく輝く、透き通った瞳。
さらさらと長い絹のターバンを垂らしたような銀髪。
白く抜けるような肌は、早朝の搾りたてのミルクのようになめらか。
その容姿は幼くして、この世に2人とこんな美しさを持った人間はいないであろう、鳥肌が立つほどの美貌。
間違いなくアイリだった。
『―っ、―、――!!』
「………聞こえ、ねぇよ」
呂律が回らない口で答えても彼女はただ無言で強く、彼の胸板を叩いた。
しかしふ、とローは彼女の異変に気づく。
こんなに涙を流しているのに嗚咽ひとつ聞こえない。
彼女の唇は言葉を紡ごうとしているのに、音として伝わってこないのだ。まさか、
「まさか、声が出せねぇのか?」
こくり。
小さく頷く、肯定。
彼は渾身の力を振り絞って震えている彼女の細い肩をつかんだ。
彼女は驚いたように目を見開いてローを見つめた。
「誰に、っやられ、た?」
『――、』
その台詞に彼女はますます目を丸くしてみせた。
しかし、アイリを突き刺す鉄の芯のように真っ直ぐな視線。
その瞳に燃えるは、赫怒と焦燥と彼女への慈愛。
アイリはそんなローの心象を悟って、柔らかく微笑んで見せてから、海から上がり砂浜に座る。
すると、そこには人間の姿をしたアイリがいた。
『わたしの能力。
ヒトヒトの実、モデルマーメイド。
この世で唯一、海に愛された能力者。
だけど人魚のときは対価として言葉を話せなくなる』
アイリの言葉に、自分の心配が杞憂だったことを知り、ローは苦々しく言った。
「そりゃ便利なことで」
『ふざけるな』
「いてぇよ」
おどけたように笑ってみせれば脇腹を容赦無く蹴られる。
彼女はやはり、その美しい瞳から涙を流していた。
その姿はなんとも背徳的で。
これをみたローは、神の逆鱗に遭うのではないかと思わず錯覚した。
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