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小説(らくがき)
あなたを知りたい《妖館へようこそ!の短編書きかけ…うた腐リ…音トキ、マサレンマサ、那翔、砂翔、友春》

 私は、一度だけ、親に触れられたことがある。
 その一度は、頬を叩かれたときだ。

 私が兄のことを『羨ましい』と言ったとき、母は私の頬を、叩いた。

『あなたに……あなたと比べられているハヤトの気持ちが分かるの!?』

 そう叫んだ母は、涙を流していた。
 そこからは、兄への愛情しか感じられなかった。



 目を開くと、真っ白な天井が見えた。ベッドから上半身を起こして、私はため息をつく。

「………ゆめ、か」

 まったく、朝から嫌な夢を見たものだ。
 私はベッドから降り、着替えのためクローゼットに向かう。今日は連休明けの学校だ。久しぶりの制服に私は少しだけ浮かれた気分になる。そんな自分に苦笑した。

 正直、私は学校が好きではなかった。

 成績が学年トップで妬まれるということもあるせいか、よく絡まれ、その度に無駄に悪態をついてしまう悪癖を発揮してしまうからだ。

 だから、妖館に来る前の学校では常に一人だった。一人の方が気楽だったし、何より誰も傷つけることがなかったから。

 しかし、今は違う。音也や四ノ宮さんたちや翔がいつも周りにいるから。音也は相変わらず私を甘やかすし、四ノ宮さんたちは翔の周りにピリピリしているし、翔は同性愛好きを遺憾なく発揮している。妖館とまったく変わらない彼らと一緒にいると、悪癖で悩んでいる私が馬鹿みたいに思える。

 だから、学校は嫌いじゃない。



「おはようトキヤ! 今日も本当に格好いいね!」

 自室から廊下へ出るドアを開けると、明るい声で挨拶された。目の前で。
 トキヤはまたか…と思いながら後ろ手で部屋の扉を閉じる。

「昨日は夜遅くまで起きてたみたいだね大丈夫? 今日の朝食はマサに教わった和食を作ってみたんだ。カロリーはもちろん抑えたよ。お弁当も和食系で攻めてみたから楽しみにしててね! あとねあとね……」

 いつも、朝にラウンジまで歩くとき、音也はマシンガントークを繰り広げる。その全部がトキヤに関することだ。よくそこまで話す内容があるものだと感心することも少なくない。

(そういえば、音也は何一つ自分のことを話しませんね)

 音也は口を開いても開かなくてもトキヤのことしか言わないし考えてない。これは自惚れではなく事実だ。
 一十木音也。同い年。明るく自由奔放だが、トキヤには絶対服従する。何故かトキヤを妄信的に好いている。
 彼との初対面は一年前の今日。一年音也と過ごしていたのに、トキヤは彼に関して、このぐらいのことしか知らない。その事実に、今気づいた。
 理由はおそらく、トキヤが知ろうとしなかったからだ。知ってしまったら、この心地いい関係が終わるかもしれない。不思議と、そう感じたから。

(趣味とか、好きなものとか、今度聞いてみましょう)

 そんなことを考えているうちに、ラウンジに着いた。



「おはよー。音也誕生日おめでとさん」

「誕生日おめでとう」

「おめでとうございます〜」

 先にラウンジにいた3号室の住人たちにそう言われ、トキヤは固まった。

(………た、んじょうび? 音也の? 今日が?)

 今日は4月11日。記念すべき、トキヤと音也が初めて会った日。
 今日が音也の誕生日だったなんて初耳だ。朝の音也の会話にも一切そんな内容はなかった。
 混乱しているトキヤを余所に、音也は翔たちに嬉しそうに笑っている。

「翔たち、覚えてたんだ〜。ありがと!」

「当たり前じゃん。何年の付き合いだと思ってんだよっ」

「チビが祝えって言ったから祝ってやったんだありがたく思え」

「はいこれプレゼントです! 僕とさっちゃんの合作ですよ〜!」

「わあ何これトキヤのぬいぐるみ!? 見て見てトキヤ、トキヤのぬいぐるみ!」

 目を輝かせて飛びついてきた音也は、トキヤを模した人形を見せつけてきた。その人形は確かにトキヤに似ていた。だが、表情が険しいのが少しひっかかる。いや、それよりも。

「翔、『何年の付き合い』というのは……?」

「ん? ああ、俺と音也は小さい頃良く遊んでたんだ。小学校もずっと同じクラスだったし」

「僕たちは小学校から翔ちゃんと音也くんと遊んでたんです」

「レンと真斗には良く遊び場を提供してもらったな」

「春歌と友千香は良くチビをいじって遊んでた」

「チビ言うな」

「………そう、なんですか」

 知らなかった。確かに音也はトキヤ以外の住人たちと仲が良いとは思っていた。だが、それは持ち前の順応力で仲良くなったのだと思い込んでいた。
 実際は、トキヤ以外は全員に面識があったのだ。全く気づかなかった。

「あ、これ俺からな。この間欲しいって言ってたレア物シャンプー。オークションで競り落としてやったんだからな。ありがたく使えよ!」

「ありがとう翔! これ欲しかったんだよね〜毛並みがふわふわになるって評判でさ〜」

「毛並みふわふわになるんですか!? いいなぁ……僕も欲しいです」

「おいチビそのシャンプー他にないのか?」

「競り落としてって言っただろ。他にはない。一個でも苦労したんだからな。あとこれ、真斗とレンから新しいスーツとワイシャツ。それと、春歌と友千香から米沢牛もらった。キッチンにあるから」

「わーいありがとう!」

 翔たちの会話が耳を通り抜けていく。
 呆然としているトキヤを翔が怪訝な顔を見た。

「どーしたトキヤ。あ、音也を取られてヤキモチか?」

 ニヤッと笑う翔を絶対零度の眼差しで見てから、トキヤは音也を向く。

「音也、朝食をお願いします」

「うん。ちょっと待っててね」

 音也は笑顔で頷くと、ラウンジを出ていった。
 席についたトキヤに那月が声をかける。

「トキヤくんはどんなものをあげたんですかぁ?」

「え……そ、それは」

 トキヤは言葉に詰まった。
 そのトキヤの反応を見て、翔がため息をつく。

「はあ……まーたアイツ、トキヤに誕生日言わなかったんだな」

「また?」

 まるで前もこのようなことがあったような翔の言い方に首を捻ると、翔は慌てたように大声を上げた。

「あ、いや、なんでもない! トキヤ、音也の誕生日知らなかったんだろ?」

「……はい」



 トキヤの胸が、チクリと痛んだ。

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あきゅろす。
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