[通常モード] [URL送信]
愛憎の刃(TO?)


※気持ち悪い話。



 背後に人が立っていることを、声が聞こえるまで気づけなかった。
 悪意も殺意も感じさせない瞳は、生気すら見られなかった。
 頭の中で警鐘が鳴り響く。なのに、指先一つ動かせないのはどうしてなのか。

 これは夢だと思いたい。
 自分の足元には、共に闘ってきた心強い仲間が転がっている。誰も彼も動かない。立っているのは、自分だけだ。信じられない。

 自分の背後に立っていた女性は、血濡れ姿でレイピアを両手に持っている。
 紅潮した顔に浮かんでいるのは恍惚とした笑みだ。つり上がった口元からは狂気すら伺える。

 武器を手にしようと思うのに、なおも身体は言うことをきいてくれなかった。
 なぜ。そう叫びたいのに声すら出なかった。
 自分も死んだのではないかと思うほど、自由にならない。

 女性は血糊がついたままレイピアを鞘に収め、ヒールを高く鳴らしながら近づいてきた。
 動かない自分の顎を、愛撫するように赤い指がなぞる。

「あなたにとって、いらないものだからみんな壊してあげたのよ?」

 命を共にした仲間を、いらないものだなんてあるはずがない。動けない代わりに、強く女性を睨む。
 女性はうっとりと微笑んだ。

「あなたにとって邪魔なものなのよ?あなたの望む道を阻む障害物でしかない。でもあなたは絶対にそれを壊せない。だってあなたは優しいもの。だから私がやってあげただけ……」

 そんなはずは、ない。
 仲間がこんなに簡単にやられるはずもない。
 そう信じたいのに!

「だってほら、現に、あなた、とってもいい顔で、笑ってる」



 自分の叫び声で目が覚めた。濡れる感触が目元からこめかみにあり、泣いていたことを自覚する。
 なんて悪い夢を見ていたのだろうか。夢は深層心理を強く反映するというが、だとすると自分の本心とは一体なんだというのか。恐ろしすぎて、ただの夢だと笑うこともできない。

 何度か深く呼吸を繰り返し、起き上がる。なぜだが周りが異様に静かだ。
 自分が目覚める日常の朝は、こんなに静かなものだったろうか。

 ……まさか。
 夢に決まっている。

「夢に、決まって……」

 掠れた自分の声に、不安がどんと大きくなる。
 ああ、自分はいつ寝たのだろうか。仲間を最後に見たのはいつだろうか。自分はどこから夢を見ていたのだろうか。
 彼女は、夢にしてはやけにリアルではなかったか。夢だからこそリアルに覚えているのだろうか。

 夢の場面はこの寝室だった。ここで仲間が皆倒れていた。床は血塗れで、酷い臭いがして、部屋は暗かった。なぜか鮮明に覚えていた。

「……嘘に、決まって」

 やっと笑みを作ることに成功した。
 それなのに、勝手に涙が頬を伝った。



20131222
『自分』は誰か。夢なのか現実なのか。ご想像にお任せします。
管理人は夢に関係する話が好きみたいです。
 


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!