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光の陰には

 俺は、もともとドミシュたち獣人の国を侵略するために襲い掛かった侵略者だった。戦いの末に信頼を得て今は同盟を結んでいるけれど、そんなふうに思ってもらえるなんて奇跡だ。自然に笑みが浮かぶほどうれしい。
「……ありがとう。ふふ。早くルディに会いたいな」
『ルディルフ王もテルさまのお帰りをお待ちしているでしょう。腹を空かせた肉食獣のように、部屋中をグルグル歩いて』
 国一番の巨体を持つルディが、四つ脚で周囲を威圧しながらうろうろしているのはドミシュは知らないだろうけど事実だ。今朝方意識を飛ばしたときには、ルディは既にその状態だった。
 獣人は独占欲が強く、自制心が弱い生き物だから、あと一日でも引き止められていたら、ルディが挙兵していたかもしれない。せっかく苦労して配下ではなく同盟に持ち込んだのに、こんなことで台なしにしたくない。
「ルディが暴れ出す前にはやく帰らなくちゃね」
 ドミシュがはい、と答えた。
 高速で移動しているため、その瞬間にも景色は変わっていく。もうすぐ領土に着く。あぁ、はやく会いたい。
 道の両脇に、白い花が咲き乱れ始めた。獸人たちの間では、クゥィッティ神の涙といわれ大事にされている、ウォズティッカという花だ。よくルディが俺にくれる花でもあり、会いたい気持ちが強くなる。
 ルディと3日も離れていたなんて、出会ってから初めてかもしれない。何せ侵略戦争の時でさえ、毎日会って戦っていたのだから。
 草原の中、巨岩をくり抜いてできた家が見えるようになってきた。獣人の領土に入ったのだ。遠目にルディのいる獣人の首都、カルカディッサの都が見えた。
 都が見えたというより、見えたのはカルカディッサの王城、サラヌンバラダ城だ。サラヌンバラダ城は、山のような一枚岩をくり抜いていくつも部屋を作ったという世界遺産級の城だ。
 オーストラリアのエアーズロックとトルコのカッパドキアを思い出させる偉大さに、初めて目にしたときは知らず涙を流していた。サラヌンバラダ城は、城自体が崇拝の対象とされているのだが、それも納得だ。

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