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光の陰には

 深晴くんと別れ、領土に戻るときのこと。
『正直、血管がブチ切れそうでした』
 ゾウほどもある巨体で、トラによく似た獣が、高速で飛ぶ俺に並行して走っている。獸人で、人型にも四つ脚にも変化できる俺の近従、ドミシュだ。実に腹立たしそうに、彼はそう言った。言うといっても、獣のときはテレパシーだから、頭の中に直接聞こえるんだけど。
「うん? 神子さまのこと?」
『はい。あの無神経さ。全く感情を乱さないテルさまに感服いたしました』
 ドミシュは特殊能力を持った獣人だ。彼の獸人にしては冷静な性格と、なによりその特殊能力で、今回の供に彼を選んだ。
「ごめんね。ドミシュの気持ち乱しちゃったね。神子さまが日本人ってわかってたらよかったんだけど」
 ドミシュの特殊能力は、どの言語でも意味を理解できるという、自動翻訳能力だ。だから、あの場にいて深晴くんの近従でさえ理解していなかった俺たちの日本語の会話内容をドミシュは知っている。
 彼を今回の供に選んだ理由は、アディノールド王に深晴くんの慰め役として呼び出されたのに、言葉がわからず不興をかったらマズイと思ったからだった。幸にして、俺たちが同じ故郷と言葉を持っていたおかげでその心配はなくなったのだけど。
『私の気持ちなどどうでもよいのです。私の気持ちより、あなたがあの愚か者に愚弄されたことが我慢なりません』
 ドミシュは、俺が獸人側としてアディノールド国と交渉をし、同盟を結んだときから、盲目的なまでに俺に心酔している。俺と深晴くんが雑談していた同じ部屋に控えていた彼が、何度となく切れていたことにもちろん俺は気付いていた。
 もしドミシュが深晴くんに飛び掛かろうものなら、大変なことになっていただろう。具体的には、深晴くんを溺愛するアディノールド王に領土に攻め込まれるとか、はたまた単純解決で俺の首が飛ぶとか。
 そんなことになってはことなので、即座にドミシュを魔法で押さえ込む用意もあった。ドミシュが獸人にしては冷静で、本当によかった。
「神子さまは俺を馬鹿になんてしてないよ。彼はただ、純粋なだけ」
『純粋? 神子は16歳とおっしゃいましたか。その年で純粋などというのは、罪となる無知です』


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あきゅろす。
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