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話を聞け!

 そんな僕の幸せが崩れた。
 転入生が来たせいだ。

 僕のクラスは、柄の悪い奴らの吹き溜まりと言われるFクラス。クラスメイト、あんなに優しいのに、めっちゃ他クラスには評判が悪いのだ。
 そして、転入生は、家柄と成績優秀なSクラスに来た。明らかにカツラなもっさり頭に、キテ○ツのベンゾ○さんみたいな眼鏡の、小柄な少年だった。初めて見たときは、素人対象のドッキリなのかと思った。
 転入生を見たのは、お昼の食堂。前の日に、てっちゃんから一緒にお昼を食べられないと言われていたので、この日はクラスメイトと食堂で食べることにしたのだ。
 食堂に訪れた転入生の周囲は、異様な空気に包まれていた。転入生の姿がまず「目をあわせちゃメッ」系なのだが、なぜかその両隣に美形と評判の不良楠原と、さわやかスポーツ美青年紺野を従えていたからだろう。
 普段なら、あの二人に近寄ろう者がいれば、彼らの親衛隊が騒ぐだろうに、今日は皆が無言で見ているのみだ。
 僕には理由がわかった。あれは、素人相手のドッキリなのだ。明らかに変な奴が学校にいたら男子高校生はどう反応するか、的な。なぜだか知らないが、見栄えがいいあの二人はテレビに起用されたのだろう。
 ということは、あれに声をかけたらテレビに出ちゃうかもしれないし、お笑い芸人みたいなうまいツッコミをしないとKY的な雰囲気になるに違いない。
「鮫ちゃん。ベン○ウか! って突っ込んだらテレビ出られるかなぁ」
「あめぇな。もっと捻らねぇと全国をわかせらんねぇよ」
 スキンヘッドの鮫島こと鮫ちゃんが鼻で笑った。
「うーん。水戸黄○か!」
「あぁ。立ち位置な。つまらねぇ。一瞬間があいて、その後シラケるな」
「えー。じゃあ、オタクなの?」
「おめー、センスねぇわ。芸歴40年、一度も脚光浴びねぇカンジだ」
「鮫ちゃんヒドイ。って、意味深にてっちゃんに呟こう」
「悪魔かおめーは!」
 鮫ちゃんチョップが入った。手加減してくれてるけど痛い。
 鮫ちゃんは、てっちゃんの舎弟だ。だから、僕の友人兼ボディーガードなのだ。
「もういいもん。誰が突っ込むのか見るだけにするもん」
「そうしろ。おめーは目立つな。おめーに何かあった日にゃ、剱持(けんもち)さんが世界を滅ぼす」 てっちゃんは、何だかよくわからないコネクションを世界中にもっているらしい。そんな説明受けても、僕の脳は理解しなかった。でも、僕に何かしたらてっちゃん黙ってないだろうなぁってのは僕にもわかった。てっちゃんヤンデレだもん。
 見守っている内に、ドッキリは進行した。
 生徒会登場。
 人気の高い彼らが現れると、いつもならキャー、と甲高い悲鳴が上がるのだが、ドッキリのカメラがあるせいか皆控えめに見つめるだけだ。
 ていうか生徒会が食堂に来るなんて珍しい。大変マネー権力のある彼らは、マネーの力をちらつかせ、専属のシェフに作らせ、お礼にマネーを投げつけているらしい。というのがクラスメイトとの間での共通認識だ。
 生徒会の皆さまは、迷うことなく転入生に向かった。え。まさか、彼らもドッキリ?
「これが清宮(せいみや)のお気に入りか」
 転入生の正面に立ち、新庄(しんじょう)会長が指を差して清宮副会長に聞いた。
「僕のものです。手を出さないでくださいね」
 清宮副会長が答える。それを新庄会長が鼻で笑う。
「ふん、オタクじゃねぇか」
 ツッコミのトップバッターは会長。でもそれ、40年たっても脚光浴びられない芸人レベル!
「ふふふ。あれじゃ、全国のお茶の間はわかないよねぇ、鮫ちゃん。トップバッター三振」
「馬鹿が。ありゃ見た目で女の目を引くだろ。振り逃げ1塁だ」
「えー! 狡ッ!」
 ドッキリはまた進んだ。
「副会長ぉ、こんなのどこがいいのぉ」
「きもーい」
「きしょーい」
 双子の書記、和久津実(わくつみのる)と豊(ゆたか)が口々に言う。
「ねぇ鮫ちゃん。僕としては、ああいう汚い言葉は、短く鋭く言わないとテレビ受けしないと思うんだ」
 キモっ、キショっ、というように、言葉の意味を感じさせない間合いと速さで言わないとね。意味を考えちゃうと、聞いてる方も気分悪くなっちゃうもん。
「ババァ受けを考えると、ありゃ放映なしだな」
 鮫ちゃんも頷いた。現場では、さらにチャレンジャーが続く。

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あきゅろす。
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