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幸薄い世の中で



ぴょい、と跳ねる。

軽く地面を蹴るだけで真咲の体は地上から5メートルはある屋根の上へと到達した。



(・・・・・・やっぱり、身体能力が人外になってる)



人造人間や犬男や蛇女やらの集団に世話になっていながら、自分がそうなっていると自覚するのは何とも言えない気持ちである。

ふと思いつき空家の角材に蹴りを叩き込むと、バッコン!と音を立てて二つに割れた。

この分なら人間の骨程度砕けるだろう。自分の足にもダメージがくるが。



『すっごいね、マサキ』

『はい、ありがとうございます、マーテルさん』



どうも脚力の強いタイプの動物らしいが一体どんな動物なのだろうかと考えるが猫耳とかだと恥ずかしいだけなので完全体になるには未だに踏ん切りがついていない。

その横では女同士仲良くしようと付き添ってくれているマーテルがキメラの体の使い方を実践を兼ねて教えてくれている。



こちらの世界へ迷い込んでしまった折、どうも真咲の体はこちらで言う合成獣のものとなってしまったらしい。

向こうの世界から何かしらの生き物を連れてきてしまったか、こちらの世界の生き物に癒着する様な状態になってしまったか。

なんにせよケッタイなトリップの仕方だ。



『何と合成させられたんだろうね、あんた。』

『・・・完全に、獣になれば、わかりますよね?』

『え、やるつもり?』

『はい、知っておきたいですし』



自分とおんなじ体を共有している動物がどんなものなのか知りたいのもある。

それ以上になかなかこの体は戦闘向きらしいので、恩あるデビルズネストの彼らの役に立てる可能性も高いからだ。

この世界の今がどのあたりの時間を流れているのかわからないけれど、ボスであるグリードの傍にいる限り危険は付きまとう。

この場所を離れる気こそ無いが原作でのデビルズネストの最後がアレな事を知っているだけあって多少の覚悟は必要かと思う。



人外の力におびえて戸惑っていて良いはずも無い。

人が近くにいてくれている分、もしも暴走したところで止めてもらえるだろう。

そう思って真咲は自分のことに集中した。



そして。



「、、、、、、、、、ッ、、、な、な、」

『うっわぁ・・・・・・これはこれでいろいろと問題あり?』



大きな変化があったのは足だった。

人間の素足があった部分は踵と足先の離れた固い骨の浮いた獣の脚に変形し、黒い毛がふくらはぎから膝までをまだらに覆っている。

集中が中途半端だったのか上半身には特に変化はなく、足が変化したせいで少し前かがみになった気がするぐらい。

マーテルが『問題』と言ったのはそれらではなかった。

真咲が自分を写しているガラス窓を見て絶句したのもそのせいではない。



問題は頭部にあった。

さっき猫耳とかはカンベンとは思ったさ、そんなどこのコスプレみたいな状態になるなんてと思ったさ。

しかしこれはないだろう。

頭を抱えてうずくまるとその感触が掌に伝わるので居た堪れない。



「なんだってコレ・・・・・・」



ふかふかした柔らかい感触。

形を確かめるように撫で付ければ感覚もしっかりとある。

人間の耳の代わりに、ぺたりと長いそれがくっついていた。

真咲自身の黒い髪に埋もれて一瞬わからないが、たしかに兎の耳が生えていた。



どうもこうも。

こちらで合成されてしまった生き物は、黒兎だったらしい。



誰が得するんだろう。

そう真咲はつぶやいた。

マーテルの『変な売人とか見世物小屋に攫われないよう気を付けてやらないと』とかなんとか言う言葉は聞こえないフリをしながら沈み込む。

尻尾がないだけマシなのだろうか。


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あきゅろす。
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