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檸檬



体質系ミュージカル「眠りの森の白雪姫」

脚本・演出:鳴海先生

主演:乃木流架・正田スミレ



≪大変お待たせ致しました。「眠りの森の白雪姫」まもなく上演致します。お席におつきになってお待ちください≫



三十分遅れの開幕となった舞台だが、客がほとんど帰っていないのはさすが体質系のファン層の厚さと言うべきか。



「わあ檸檬くんかっこいいー!」

「そんなことないよ、でもありがとう」



王子役の衣装はつばの大きな白の羽根つき帽、腰の位置を高く見せる白タイツにブルーのベストという形になっている。

百合先輩の代役としては黒髪のショートヘアなウィッグを付けた方が良いかと思ったが、用意が無かったのか衣装係が開き直ったのか金髪は一本に編み垂らしてリボンまでつけられ、なにやら本日の主役は金髪美少女美少年のカップルという事にするらしいことが決まったらしい。

ちなみに世界的映画は大体黒髪イケメンと金髪美女がソリストである。



「しかしこんな王子様でお客様は納得してくれるんですかね――…うわ今更怖くなってきた」

「ううん似合ってる似合ってる!でもそうだね、それならちょっと――〈ごにょごにょ〉」

「……そのセリフを俺に言えと?」

「君は演技になると変われる子だと僕は信じてるv」

「さいですか」



それはそうと舞台に立つのだから男でもメイクは必要だ、それは理解しているので大人しくアイラインと眉を弄られるのを受け入れた。

舞台照明の光は役者の顔を照らしたり影を作ったりと様々に用途があるが、主役級となればスポットをいくつも浴びるため顔のパーツが客席から見えなくなってしまう。

メイクをしないとのっぺらぼうに見えてしまうと言われれば仕方がないと思うしかない。

ちなみに身長はシークレットブーツで誤魔化し、姫と並んでもちゃんと絵になるようになっている。

微妙に男としてのプライドが傾くが、役は監督や衣装によって作られる作品だ。演技はともかく見え方に関しては演じる側の人間の意志がほぼ無視されるのは仕方がない。



「で、蜜柑ちゃんのほうは?」

「大方できましたよー……去年の「ロメオとジュリエッタ」の衣装が残っていてよかった」

「ホントは西洋には死に装束の概念ほぼ無いですけど、これ物語だし白基調でエピローグドレスってことで!」

「むしろドレス一つ追加で舞台的にも豪華になったんじゃないですかね。これなら着替える時間がないから白雪姫がダブルキャストな理由づけになるんじゃないですか?」



去年の演目はロミジュリだったらしい。

なるほどそれならエピローグドレスも納得だ。



粗方準備が終わったらしく舞台裏に戻ってきた蜜柑のほうを見ると、かわいらしい白基調のネグリジェを改造したような衣装を身に着けて登場してきた。

お姫様らしくふんだんに、けれど目立ちすぎないレースとリボンが全身を飾り、ひらひらふんわりとした透ける素材のドレスは小さなスパンコールがちらちらと輝いている。

ゆるくウェーヴした明るい茶色のロングヘアーは背中につくほど長く下ろされ、耳の横で衣装と合わせた白い花飾りが華やかに咲いていて、この短時間でよくここまで作り上げたものだと感心する。

要するに。

この姿がガラスの棺に横たわっていればそれこそまさに白いお花の妖精になるだろう、と思わせる程度には似合っていた。



あれっ、めっちゃかわいい。



普段は元気の良さと言動でかき消されがちだが、元々蜜柑も故郷では蛍と並んで美少女コンビと呼ばれていたのだ。

皆が作業の手を止めて、ほう。と蜜柑の変身ぶりに見惚れ感心するが、本人のそわそわきょろきょろとした忙しなさにまた現実に戻る。

しかしかわいものはかわいい。

とてとてと白いパンプスのサイズが合わなかったらしく小股で寄ってくる妹に檸檬も頬を緩めて腕を広げた。



「兄ちゃんー……ウチ、変ちゃう?」

「ううん、かわいいかわいい。俺の妹マジ天使。白いお花ちゃんだわ、かーわい」

「もーふざけんといてや、ほんまに変とちゃう?どっかおかしない?」

「大丈夫!蜜柑かわいい。超似合っとる!兄ちゃんを信じられん?」

「うん、信じられん……」

「えっ」

「だって兄ちゃん女の子褒めんの上手やもん」

「……」



ぶっちゃけ俺が軽くシスコンになった理由もわかってもらえる程度にはかんわいいからだいじょーぶ。

檸檬はさすがにそれ以上言うのは自重した。

実は先ほど男同士のキスが嫌だと駄々をこねたのも、あわよくば蜜柑を代役にしてくれないかと思ってのことだったりもしたのである。

自分が王子役になってしまったせいで妹の王子姿は見れなくなってしまった。

そう考えると。妹がかわいい恰好しているのが見たい、とふと思ったのだ。

そんなこんなで神様かだれかが力を貸してくれたのか希望以上に思い通りにいって現在檸檬のテンションはかなり高い。

しかしかわいい妹は兄の賞賛の言葉をまともに受け取ってくれない。

うっかり関西弁が出るほどには興奮しているのに。



「…ひどない?」



しかしそんな声は無視され、蜜柑はルカぴょんのほうへ駆け寄って行ってしまった。



「あっルカぴょん!なーウチこれでいいと思う?ウチ大丈夫!?不安やー」

「……っ」

「髪結んでないと落ち着かへん――いやや――」

「…………えっと……。…………か」



(幕裏全員)《「……か」?》



「……か

か……髪下してんの初めて見た……」



《おやおやルカぴょん……》

《違うだろう?まったく君ってやつは》

《そこは本当は「かわいい」って言いたいんだろう?》



そんなスウィーティなラブコメが展開されたが、そんなのは檸檬はしゃがみこんで床に「の」の字を書き始める程度には落ち込んでいたので見てはいなかった。

どこぞの山猫が白い花をじっと見つめた後にフンとどこかへ踵を返したのも、

妹の大親友が「ウチ変!?」「うん」「ガーン!!」「うそよ」「」「可愛いわよ」「」「自信もってやればいいのよ」「う……うんっ」「おバカ」「えー……」となにやら怪しい雰囲気を醸し出していたのも、


見てないったら見ていない!


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