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檸檬



「……俺が代役?」

「そう。このとーり!お願いだから檸檬くん〜〜、百合ちゃんの代わりに王子様役やってくれない?」


‐‐‐‐


客席に、「開演時間が過ぎておりますが、こちらの事故により準備が整っておりません。――もうしばらくの間、お席でお待ちください――」と繰り返しアナウンスが流される。

それを聞きながらスタッフ陣と役者が束になり、せっせと舞台上にくっついたひっつき玉をこそげたり、花や草木で隠す作業が急ピッチで行う。



そして問題になったのが女王役、狩人役、王子役、それから小人役の一人がひっつき玉の餌食になってしまい、舞台に立てる状況ではない事だ。

女王役は副担任先生、狩人役は鳴海先生が代役に立つ事でどうにかなりそうではあるが、残りの問題はかいけつがなかなかされそうになかった。



(……さて困ったことになった。)



原作とは違い、蜜柑ではなく檸檬が舞台の代役に推薦されてしまった。



(でもまあ、普通に考えて王子役なら男子生徒にやらせるのが自然だよな……)



原作では山猫の衣装を着せられた棗が命令権を使って蜜柑に王子役をやらせるのが流れだ。

ちらりと棗のほうを見ればイライラMaxである。そこから察される通り、原作通りになったらしい。

檸檬はといえば、作業の音が客席に漏れないように音結界を作り、落っこちた緞帳を元に戻す手伝いをしていたら、鳴海先生に呼ばれたのだ。

王子様役をやってくれ、と。



「王子役の出番を最後の呪いが解けるシーンだけにすれば代役はなしでできるかもしれないんだけど、百合ちゃんがどうしても代役を立ててくれってね〜……」

「あー……」



本来の王子役である宮園百合さんのほうを見れば、女子生徒だらけのハーレムの中心でうんざりした顔をしている。

女性限定フェロモンのおかげで女の子にモテまくる彼女は自分のアリスにイマイチ納得がいっていないらしい。曰く、アイアムノーマル、これ以上女の子にモテるのはもういやっ!!だそうだ。

元々王子役を拒否っていたので、椅子や取り巻きの女の子と一緒にひっつき玉の被害を受けたこれ幸いにと代役プリーズを連呼している。

ついでに後ろで妹と棗が「かわいー!猫耳やー!」〈バチン〉「痛ったー!?」「男に可愛いとか言ってんじゃねえブス」と騒いでいるのをBGMに、檸檬は「うーん」と腕組みをし、



「いいですよ。台本チラ見した感じ、出番もセリフも少ないっぽいし。軽く場当たりさせてもらえればどうにか覚えます」



仕方ない、腹をくくるしかないかー。

そういう表情で笑った。



「ホント!!?ありがとう檸檬くん!!じゃあさっそく衣装を――」

「あ、ただしひとつだけ」

「え?」

「男とキスするのは嫌ですどうにかしてください」


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あきゅろす。
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