[携帯モード] [URL送信]

檸檬



少し考えて、パッと棗は走り出した。

「お?」と檸檬はそれを目で追う。

棗は通路に置いてあった木材や絨毯の中から水差しを手に取り、檸檬に向かって投げつけた。



「げ」



水差しが檸檬の頭上あたりに来た瞬間、棗はアリスで小さな炎の玉を作って同じように投げつけ、水差しを天井へ吹き飛ばした。

水差しをぶつけられるかと思って身構えた檸檬だったが、すぐにそれは違うと気が付く。



「!」



棗が狙ったのは、水差しの中に入っていた水だ。

水差しが天井へふっ飛ばされると同時に、水が重力に従って真下に立つ檸檬へ降り注ぎ、檸檬は「ぎゃっ!」と叫んだ。

通路に置いてあったその水差しの隣には同じようにコップがある。秋とはいえ熱のこもる迷路の中、休憩用に置かれていたものだ。

しかも、氷入りでキーンと冷えている。



アリスは能力者のメンタルに左右される。

檸檬が気を取られた隙に、棗は本来なら立てないほど揺れて登れない木箱をあと二段あたりまで登り切った。

それでも水を被ったぐらいでやられるわけにもいかない。

慌てて檸檬はアリスで棗の足元を揺らした。



ガラガラガラ!と音を立てて木箱が崩れる。

檸檬自身が落下しないようには調節してあるのだが、それなりの威力はある。



「ッ!」



後6秒。

それでも棗は意地を見せたのか、無理矢理飛びあがって、てっぺんに立っていた檸檬の足首をがしりとつかんだ。

無茶な動きのせいで積まれていた山は三割ほど転がり落ち、残った小さな木箱の積み木が不安定に揺れる。



「俺の勝ちだ」

「・・・・・・あーあ、これ積み上げんの結構時間かかるのに」



檸檬は木箱の山がこれ以上崩れないように配慮しながら、ため息をついた。

棗といえば、足場が悪くて宙ぶらりんになっているくせにがっしりと掴んでいやがる。微妙に痛い。



「危害を加えるのは反則だって言ったはずだぞ」

「水被ったぐらいでグダグダぬかすな」

「氷水だったんだけど。めちゃ冷たかったんだけど」



確かに無理矢理木箱の山を登ろうとした挑戦者も何人かいた、というか、フライングができないアラジンは殆どがそうだった。

その度に木箱を積みなおすのは手間なので、挑戦者が木箱を登る際にも崩れ落ちないようには調節しているのだ。うっかり木箱と一緒に滑り落ちて怪我でもされても困るし。

その優しい配慮も、棗は意に介さず無茶な事をしてくれたのだ。

無理矢理振動する木箱を踏台にした結果、変な方向に力の入った木箱達は崩れ落ちてしまった。

一応はめったなことはしないかぎり、木箱も棗も落っこちないようにはしてあったのに。



「ぎりぎり反則だぞ、さっきのメガネ先輩も脱水症状おこしかけてたし。イエローカード2枚だぞこれ」

「知るかよ」

「天井に吊ってあるロープでターザンするとか通路に落ちてる棒を使って高跳びするとか、棗君の身体能力ならできるだろーがコノヤロウ。俺の背中で隠しているけど梯子だって実はあったんだぞ」



そんなふうに木箱から降りた檸檬と棗は小さく言い争いを繰り広げる。

檸檬はこれ以上木箱の山が崩れてしまわないようにアリスを使いながらの器用な作業だ。

降りる際にも足場が崩れないようアリスを駆使して丁寧なサポートをしてやったのに、棗は全く意に介さず優越の籠った目でこちらを見るのでイラッとする。



「ってやばい。衣装濡らしたから別のに着替えさせられるじゃねーか」

「はあ?」

「どうしてくれんだよこのままじゃ必死で拒否した残りの選択肢ビキニスカートを履かされるじゃねーか、スケスケの露出の多いやつ」

「それこそ知るかよ」

「女装は別に良いんだよ、でも女でも嫌がるようなやつはいくらなんでも着たくない。妹にまでドン引かれたら俺だって傷つく」


[*前へ][次へ#]

8/16ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!