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檸檬


「へー、もう来たんだ、改めまして棗君、いらっしゃい特力RPGへ♪俺は最近学園に来たルーキー魔人でっす☆こんな格好してるけど男だからその辺宜しく☆」

「お前このごろキャラ変わってねーか」

「はっちゃけたぐらいが特力では普通。でもってこれは営業用リップサービスってやつだ。つーか実際似合うだろこの衣装。蜜柑もかわいい俺もかわいい」

「こいつナルシストだったのかよ」



先ほどの険悪な空気から一転、迷路を抜けてきた棗を迎えたのは笑顔の檸檬だった。

少し広めの幅の通路には木箱が山と積まれていて、彼はそのてっぺんに座っている。

一応客相手には言葉の通りに笑顔サービスしているらしい。

しかしその後ろ手にはあのチェーンソーが握られており、檸檬の背中からキラリと頭を覗かせている。



「まあそれは良いとして、出題するぞ。『30秒以内に俺に触ることが出来たらここを通って良いよー。』」



ちなみにヒントね、と檸檬は付け加える。



「内容は翼先輩とおんなじだけど、上手くこのステージを利用すると、アリスも武器も無い一般からのお客様でもクリアできるようになってるよ♪じゃあ30秒スタート!」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「おい」

「ん?スタートしてるよ後25秒」



そんな事を言う檸檬は後ろに下がるでもなく走り出すでもなく、積まれた木箱の上から一歩も動かない。

チェーンソーを振り回されるのだろうかと思って構えていた棗は何企んでいやがるテメエ、と睨み付ける。

しかし時間制限もある。

何かしらのアクションを起こさなくてはと考えた棗は、



ドガッ!!



と、檸檬が立っている木箱の、正確には積み重なった木箱達の一番下の土台になっている木箱を遠慮なく蹴り飛ばした。

積み上げられていた木箱は雑誌程度の大きさしかないので、その程度の衝撃でも数個が横へ転がる。

当然上へ積み木のように積まれていた木箱は土台を失い、檸檬も含めて下へと崩れ落ちる。

しかし。



「棗君さあ、いきなり暴力に訴えるのやめなよ。これゲームだから。初っ端から足場崩そうとした人は棗君が初めてだよ」

「うるせえ。どうせアリスで登れねーようになってんだろ」



グラグラと揺れて崩れ落ちるかのように見えた木箱は、巨大な手で両側から支えられたかのようにピタリと動きを止める。

よく観察していると、檸檬の立っている木箱は一度も動いていなかった。

釘を打っている訳でもロープで固定している訳でも無いというのに、これはアリスでも使っていないかぎりおかしい。



「・・・・・・テメエ、念力でも使えんのか」

「違う違う。俺は振動を生み出すだけじゃなくて、消すことだってできんの。蹴られたことで発生した振動を無効化したり、土台が壊れて失ったバランスを補うなんて使い方もある。」



言い忘れていたけど、俺はこの場所から動かないよ。

適当な調子で解説する檸檬にイラッとしたらしい棗はまた木箱を蹴り飛ばした。

しかし今度は木箱が落ちるどころか一瞬たりとも揺れすらしなかった。



「チッ」

「あー無駄無駄。振動をゼロにできるっていうのは衝撃をゼロにできるって事とおんなじだから。準備しておけば、こんな木箱でもいくら体当たりしても壊れない弟子豚のレンガの家並みの耐久力誇んだよ」



ちなみにあと17秒。

ストップウォッチを片手に、檸檬は言う。

不安定な積まれ方をしているはずなのに崩れ落ちる気配のない木箱達のタネはそう言う事だったのか、と棗は思うが、時間がやばい。



このRPGは対策が練りにくいのが売りだ。

その魔人の出すお題に合ったアリスや武器を引き当てなければならない、殆ど運試しである。

ちなみに檸檬の出すお題をクリアしたのは空中移動のできるフライング能力者などの、リーチの長いアリスを持つアラジンだ。

大体のアラジンは積み上げられた木箱を登って檸檬に近づこうとするのだが、その場合は檸檬がアリスで足元の木箱を上下左右に揺らし疑似的な地震を起こして立てなくしてしまうのだ。

それを最初から見抜いた棗はなかなかに頭が回る。



「・・・・・・」



ヒントは何だったか、このステージをうまく使え、だったか。

周りにあるのは来る途中にもあった絨毯や瓶、そして大量の木箱。

片手で投げられる程度のサイズのそれはとにかくそこら中に散らばっている。

だがこれをどう使えというのだ。


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あきゅろす。
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