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小連載
ユートピア

末の姫君や従者や黒マギとのんびりするのが好きな、とある文官のお話


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実家が桃の名産地。
よく差し入れに持ってくるそれを神官殿が気に入ったのが始まり。

夏黄文の先輩。
先王のお付きDぐらいの地位はあった。
二代目になってからはアルサーメンとかに払いのけられた。

恋愛より明日の飯な場所で育ったため、今も仕事ばっかりしてる。

故郷に妹がいたけど旦那子供共々、不幸にあう。
盗賊に襲われたらしい。
一度も甥の顔を見れなかったのを今でも後悔してる。


『なんかおまえのまわりのルフ、なつかしいかんじがする』

ルフ?
なつかしい?

『おまえ、なんだ?』

なんだと言われましても。
それより桃をめしあがれ、私はこれを食べて育ちましたから、なにかわかるかもしれませんよ。


−−−−


家族がですね、手紙をおくってよこしてくれたんです。

ふふ、ジュダル様、お喜びください。

最近旅の魔法使いさまが来てくれて、畑や農園に気候を操る魔法や土壌を回復させる魔法を使ってくださったおかげで、野菜や果物が豊作ですって。

私の官位も一つ上がりましたし、ジュダル様の好きな桃をたくさん送ってくれると書いてあります。


『本当か』


ついでに作りすぎたから売れ残ってしまう前に野菜もと。

ここはわたしもひとつ腕を振るいましょうか。


『野菜なんかまずいだけじゃねえか』


妹もそういっていました。

ジュダル様みたいに甘いものが好きで果物ばっかり食べていて。

けどね、苦い野菜を甘くする魔法がこの世にはあるんですよ。



『はあ?食物の味を変化させるってのはその食物そのものの持つ成分や特性を一つ一つ全部ひっくり返した上で変化を促す必要があるんだぞ。別属性の命令式を500組み合わせるだけじゃ足りねえぞ。んな難しい魔法おまえができるはずがねえだろ』



魔法の命令式がどういう意味なのかは私にはわかりません。
けどね。
非魔導士はルフと交信は出来ませんが、いろんな魔法をたくさん知っているんですよ。


−−−−


家族に教わったんです。

その家族はまたその前の家族に。


『かぞく』



ええ。家族です。


−−−−


昔話をしましょうか。

私には妹がいました。
小さいころから桃が大好きな娘でした。
甘いのも酸っぱいのも大好きで、切り分ける手間すら面倒がって手づかみで食べて、口と手をべたべたにしていました。

そんな妹がですね、お嫁に行ったんですよ。
私は仕官するから家の両親を頼むよと言ったのに、どこぞの長男坊に嫁いだんです。
親を言いくるめて式を挙げた後に手紙を送ってきやがりまして、ふふふ。

3通あったんですよ、その手紙。

最初の方は結婚しました、

次のは子供が生まれました。


おかしいですよねいろいろすっ飛ばし過ぎですよねふふふ。


最後のは私の帰省にあわせて子供と一緒に家に戻るから、甥っ子の顔を見てくれ、と。


まあ嫁いだ後の生まれた後の事後承諾なんて腹は立ちましたが、人間新しい家族だと聞けば悪い気はしないもんです。
どんな子だろうか妹に似た子なのだろうか、名前はまだ決めてない名無しと聞いたがどうするつもりなのだろうか、生まれたばかりの子供に贈るのは何が良いだろう、やはり乳を出す母親に栄養を取らせるのが一番かと、あれこれ考えながら帰省日を待ちました。

けれど私はその顔を結局見れませんでした。
妻となり母となった妹の顔もその夫の顔も子供の顔も。
主役たる三人家族の代わりに突然舞い込んだのは悲報。
いなくなってしまったんです。
新婚夫婦とその子供三人そろって実家へ帰る途中に、どこぞの盗賊に襲われたそうです。
子供を守ろうとした2人は殺され、その子供はその場のどこにもいませんでした。
攫われたのか、それとも。


きっとあの子は、あの世で好物の桃を両手いっぱいに抱えて笑っていることでしょう。


−−−−


魔法だそうです。
2人はどういった道具を使ってもああはならないというような姿になっていたそうです。
では2人の子供はどこへ行ったのか。

探しました。
死体がないのなら生きている可能性はあると思ったからです。
攫われたのならどこかの奴隷市場にでも売られたかもしれない。
もしかしたら子供のいない誰かが攫って行ったのかもしれない。
いなくなった子供の居場所を考えて考えて、走り回って探し回りました。
子供を攫った人物を考えて考えて、聞いて回わりました。

けれど気がついてしまったんです。
どうして二人の身体はあんなことになっていたのか。

少なくとも二人を殺したのは魔法使いでした。
けれど魔法使いというものは穀物を一瞬で粉に変え風や雨雲を操り、時には他者に幻すら見せるといいます。
それなら。
なぜ。
なぜ魔法使いは人を襲い殺し、その死体を隠さなかったのか。
私の家族を殺した理由なんて知りません。
恨みつらみか事故か偶然か、それともたまにいる快楽殺人どうこうなのか。
けれど誰だって、殺した人間の死体を隠そうとするぐらい、するはずでしょう。
ましてや魔法使いならそれができるはずでしょう。

ならばなぜ魔法使いは、死体を魔法で壊して。
殺した人物が魔法使いだという確信をわざわざ私に持たせたのか。


そう。


「魔法使いに攫われたのなら。
攫われた子供はどうやったって見つかりっこない」と。


私を、私の家族を。
絶望させるため。
誰かが子供を探そうと頑張ろうとすることを、最初から諦めさせるためなのですよ。


−−−−−−−−


にこにこと笑っている人だった。

子供が好きで料理が得意で、おそらく人に嫌われるような性格はしていない。

あの人は私の先輩にあたる人だった。大先輩。

なにせ若くして先代皇帝の補佐の一人というとびぬけた地位を手に入れた、言うなればお手本であった。



自分が仕えることになった幼い姫君の事、そこに関わってくる小さな神官殿の事は感謝するべきなのだろう。

子供の世話の知識も経験も持てる人間などそういない禁城の中、相談できるのはあの人ぐらいだったから随分と救われた。


神官殿はあの人に懐き、あの人もそれを喜んだ。

禁城の片隅で、2人で並んで歩いているところをよく見かけた。

いつも絨毯に乗るなり魔法を使うなりで、ふわふわ宙に浮いている神官殿が地面を好んで歩くなど珍しい事だったから、印象に残ったのだ。

性格は似ても似つかない2人だった。

けれど。

沈む太陽を見つめる瞳やわずかなしぐさや味の趣向。


後姿の似ている、2人だった。


とある雪の日。

ひっそりと、あの人は死んだ。


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あきゅろす。
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