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小連載
リコリス


うまくいった。

そう自分をほめながら、受けた衝撃にふらつく足を無理矢理前へ前へ。



作戦は大成功と言ってよかった。

久々に終結した若き頃の仲間(というよりは悪友と呼んだほうがしっくりくるが)と頭を寄せ合った計画。

ターミナルの半壊。

全壊では無く、必要な部分のみを残して害ある機能を徹底的に潰す手順のうち、今回はかなりの要だった。

機械や組織というものはあちらこちらへ何本もの手を伸ばしているため、適当に目についた場所から手当たり次第に、というわけにはいかない。

まあなんにせよ時間をかけた念入りな下準備の結果、こうして満足のいく結果は得られた。

後は同士たちと合流し、隠れ家へ向かうだけ。




「・・・・・・しかし、この状況は骨が折れそうだな・・・・・・」




油断したわけではない。

こうなることは予測のうちだった。

彼の仕事は桂小太郎の代名詞でもある爆弾を、ターミナルに侵入して計画通りの場所に取りつけ、爆発させること。

いくつもの爆弾を一度に爆発させるのだ。

うっかりひとつぐらい不備がある可能性を考え、一か所に複数仕掛けた。

もちろんその手間はあったが、おかげで失敗はゼロだ。喜ばしい。


しかし、ちゃんと充分に退避してから爆発させたのだが、すこし距離が足りなかった。

大量の爆弾を爆発させたコントロールルーム。

そこが崩壊寸前までに、めちゃくちゃに揺れたのだ。

意図して崩壊させなかったのだが、それが裏目に出た。

人間がショックで立てなくなるのは震度いくつだっただろう。

なんにせよおかげで足に来た。

いまだに地面が揺れている気がする。




「ほら、肩に掴まりなさい。連れて行ってあげます」

「かたじけない」




そんなふうに支えられ、やっとターミナルに着けていた悪友の所有する船の入り口に着く。

必死で足を動かし廊下ばかりを見ていたせいで目がくらくらする。

座り込み、やっとそこで手を貸してくれていた男の顔を見た。












「おいヅラぁああ!どんだけ探したと思ってんだ!先に戻ったなら連絡しろって言ってただろうが!」

「あははは〜作戦会議で毎回寝てる金時に言われちゃおしまいぜよヅラ〜」



「・・・・・・、銀時」

「んあ?いつもの『ヅラじゃない桂だ!』ってのはどうしたよ。頭でも打ったか」

「すぐに戻れ銀時!恐らくコントロールルームだ!」

「は?そっちは高杉の役目だろ」

「こちらの事はすぐに終わらせてやる。あいつ、恐らくこうなる事を仮定して配置を決めていたらしい!」



「一番近いのは辰馬が担当する客間だったな、作戦変更だ!辰馬を銀時の担当に入れ替える。高杉は電波の届かない整備室だろうから、銀時が客間に行くよう言ってこい。」

「何の話だよ!?」

「いいから行け!船を守るのは俺と辰馬、ターミナルへの潜入役は高杉、銀時はコントロールルームだ!」




「よォ、来たかよ」

「ヅラが騒いでたけど、おめー何をしたんだよ」

「あァ?なにもしてねーよ。したのはあの人だ」

「?」

「銀時ィ。やっと俺が信じ続けたものの正しさが証明されるぜ?」



「だから、せいぜい泣きわめけ」










「さて。私の息子と弟子たちとの15年来の再会を邪魔するのは誰ですかね」

「嬉しいからって暴れすぎないで下さいよ、松陽さん」







すう、と。

背中合わせに得物を構える男が2人。



少し背の低い、薄い麻色の肩口で切りそろえられた髪が特徴的な男は薄い色の雪花が散る羽織を着込んでいる。

伸びた背筋と黒い柄の剣先は、ぴしりと一本線を引いたようなお手本の構え。



その背中を守るのは、武骨な槍を軽々と持ち上げる、長身の灰色の長い髪を無造作に纏めた男。

竹林が描かれた白黒の羽織はコートのように体をすっぽりと隠すほどの長い丈で、通された帯に装飾は無いが独特の光沢のある皮の様な素材が使われている。



両者とも華美では無いものの、このような戦場に出向く衣装では無い。

どこかのお偉いさんの接待にでも行くような恰好だ。

特に長身の男のほうなど、汚れが簡単には取れない白を基調とした上質な服で、万一破れでもしたら一体どれほどの金が飛ぶことか。






朦朧体の絵のようにぼんやりとした輪郭を描く二人は同時に足を踏み出す。



瞬間。



近くに犇めいていた武装天人達が「後ろに」跳んだ。

全速力で、2人の得物の届かない場所へ跳ぶように逃げる。



「な、なんであの二人組がこんな所に!?」

「やばいぞ、逃げろ!!」






「敵前逃亡は武士道に背くぞ・・・・・・とは言いませんけど、どこに逃げるつもりなんですかね?」

「上空6000メートルでしたっけ。まあ、パラシュートがあればちょっと高めのスカイダイビングですみますけど、海に落ちる可能性の方が高いですね」






それぞれの持つ刀と槍が静かに構えられる。

二人の長髪がゆるく弧を描く。




「嬉しい感触ですね、やはり生まれた国の衣服は身に馴染みます」

「槍はともかく、刀は和装で一番映えますからね。使い慣れた刀には余計なベルトや肩ひもはなるべくつけたくないものです」






扉へと走る武装した天人たち。

逃げるために。

あれは、決して戦ってはならない相手だ。




「最悪だ!最悪だ!なんで、あんな奴らがここに!!」

「ここは辺境の端っこみたいな星だぞ!?なんであの・・・『夜兎の対抗種族』が!?」




夜兎の対抗種族。

そう呼ばれる『人種』が誕生したのはほんの数年前のことだった。



とはいえその数年が始まる前にも宇宙最強の戦闘民族たる夜兎が急激に数を減らしているのは有名な話だ。

その数を減らした原因は夜兎の種族性。

弱い者は消え、強い者はさらに強い者を、過酷な戦いを求めて消える。

そこには男女の差など無い。

時には親兄弟子供の情すら捨てて自らの強さを示す。

ゆえに数は減り続ける。

だがその種族性が種族全体の戦闘力を上げ続けているのも事実だ。



その種族は夜を跳ねる兎。

ただ一つの弱みの太陽の光は巨大な傘で避け、その傘を武器に闘う姿がそのまま種族の顔。

白い肌と色の薄い髪。

宇宙最強。

それが夜兎。



その夜兎の対抗種族。

その名前が最初に知られ始めたのはとある星の片隅の闘技場だった。

様々な星々から戦闘奴隷として買い付けるなどして集められた剣闘士たち。

命を賭けに使う場所。

見世物にされる血。

宇宙のどこにでもあるものだ。



そしてその星の闘技場にも夜兎はいた。

けれどその中でトップに立ったのは夜兎ではなかった。



闘技場には、血を見せるためだけに用意される弱者がいる。

様々な種族の中でも小さく軽い、貧弱な種族。

夜兎に似ていても彼らとは生まれ持った体の丈夫さも力の差もある種族。

そのはずなのに、刃物一つを持たせただけで凄まじい強さを見せる種族。

夜兎を負かす生き物が、産声を上げたのだ。



その日、たった二人の地球産の奴隷が夜兎に勝ってしまった。

侍という、生き物が。







「『侍』だ!!『最後の侍』が、なんでこんな所に来てやがる!?」










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