小連載
6
「・・・・・・大丈夫ですか、法等さん」
「だいじょぶ。すぐ治るから、そんな顔しなくていいよ」
ああ、どうして自分はこうなんだろう。
せめてこの子が7歳ぐらいになるまでは生きていようと思っていたのに。
生ようと決めた途端、この身体と私の魂は喧嘩をし出した。
去年の冬、冷め切った仮面夫婦みたいにぼんやりと終わりを待っていた頃はそんな兆候の欠片も見せなかったくせに。
むしろ例えるなら代わりがないから別れを切り出さないままぐだぐだと続いていた関係みたいなもんだったのか。
これだけ長く付き合って来たのに、共に生きていく相手はお前じゃないと言い出しやがった。
寒い。
身体がマヒしたみたいに夢見心地で、自由に動かない。
「ちくしょう、まだ別れてもらっちゃ困るんだよ。生まれ持ったホントのパートナーにはもう二度と会えない事ぐらい分かってんだろ、私の魂も法等の魄も。」
いや、地獄に行けば再会できんのかな。もしかしてお前、だからこんな風に反抗するの?さっさと召されて本物の片割れと同じ場所に行きたいって?私の魂はお呼びじゃない?
そりゃあそうか。そうだよな、おまえだって収まるべき場所に行きたいよな。こんな用済みの身体にいつまでも引きずられてんのは不本意だったよな。
でも頼むよ。私だってここに来てしまったのは偶然でいきなり放り込まれたようなもんなんだ。放り込まれて何年も経つうちに、やりたいことが出来てしまった。あれだけは守りたいんだ。お願いだよ。
おまえは私の本心を知っているんだろうなあ。そうだよ、拾った責任なんだかんだと言いながら、私は何の足跡も残せずに確かにいたはずの場所を離れるのが怖いだけなんだ。
誰かに私を覚えていてほしいんだ。誰にも知られずに終わりを迎えることを繰り返し過ぎて、そんな気持ち忘れたはずだったけどそれでも嫌なんだ。だから、たった一つだけ、それを叶えてくれるかもしれない小さな希望を持ってしまったから、今度はもしかしたらと思ったんだ。
こんなことを何度も繰り返していると、死ぬことが怖くなくなってくる。また繰り返さなきゃならない事自体が怖くなるからだ。身体から放り出されて死ぬのは怖くないけれど、それのせいでまた気の遠くなるような時間を過ごして、気紛れみたいにまた放り込まれて一から始めなきゃならない事にうんざりするんだ。
死ぬことが怖くないなんて本心から言えるのは、狂った人間か生き物じゃない何かだ。生き物は総じて死を恐れてなりふり構わず生きようとするはずだから。
私は自殺志願者じゃないんだよ。借り物でも自分の足で立って生きている瞬間が大事だ。全部に絶望したあんな風に怖いくせに投げ出している人間じゃないんだよ。
私は何回も寿命を諦めたけど、それでも自殺だけはしなかったんだ。自殺した人間の、本人やその遺族がどんな扱いを受けるか知っているのもある。なによりどんなに空虚な生活だったとしても、命を自分から放棄する事だけはしたくなかったから。
「夜中にうわごとを言っていましたよ」
「うるさかったか、すまん。」
「冬、越せるんですか」
「頑張るさ。病は気からというだろう、陽の気を取り込むために自己暗示でもしているよ」
必死になって身体を説得し続ける事数か月。
結局、私はその冬を越すことは無かった。
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