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小連載
法螺吹Inカゲプロ

夏の日の話。

汗一つかかない泥粘土でできた身体も干上がりそうな炎天下。



とある少年少女に、出会う。


−−−−


目の前には、真っ赤な目をした巨大な蛇。

まわりには細い蛇がうごめいていて、体にまとわりついてくる。



「・・・・・・あなた、どこから入ってきたんです?」

「んん、ん?なんだここ」

「ここは我が胎内・・・・・・と言いたいところですが、ここに来れるのは『あの世界』で8月15日に死亡した人間のみのはずなのですがねぇ・・・・・・一体、何の手違いがあったのか」

「8月15日?真っ赤な目の巨大な蛇――ああ、あ。そうか、ここはカゲロウデイズだったのか、なるほど。」

「カゲロウデイズ・・・・・・確かにこの場所をそう呼ぶ人間もいますが、明らかにあなたは人間では無いように見えるのですが・・・・・・あなたは誰です?」

「ええと。――まあ、確かにあんたの言う『あの世界』で死んだこともあったりする、多分人間だな。死んだ日付までは覚えてないけど」


−−−−


確かに、世界を巡った中で、ちょっと変わった力のある目を持った少年少女に会ったことはある。

暑い夏の日に生身の肉体は失ったけれど、近くにいた子供のトラウマになっていたりしないかだけが心配だ。



確かこの世界では高校生だった。

ふらふらと当ても無く散策していると、ぷうんとソースの香ばしい香りが流れてきたのでそちらに目をやるとひとつの学校が見えたのだ。

「へえ、学園祭かあ」なんて呟いて、勝手に高校の門をくぐった。


−−−−


「久し振りだね、今は夏休みのはずなのに、どうして制服着てるの?」

「あはは。補修なんです。私、馬鹿だから」

「へえ、気を付けてね。」


−−−−


夕焼けに染まる中学校からの景色はなかなか美しい。


本来の宿主を一年以上前に失った肉体は元々病弱で実は余命半年も無かった。

この肉体の両親は子供にそれを内緒にしていたが、態度で分かるものだ。

だけど最後まで知らないふりをするのがせめてもの親孝行だろう。

この肉体の本来の持ち主も自分の余命を知っていたし、ずっとそれを知っていることを悟られないように黙秘することで自分の世界を守っていた。

残留思念も穏やかな別れを望んでいる。それならそれに沿うまでだ。



初めて寿命で死を迎えるのかな、とぼんやり考えていた。

受験に必死だった頃からすでに数か月がたち、一学期が終わった頃だった。


あっという間に過ぎてしまった高1の春。

やってきた夏休み。

何年たってもある日突然センチメンタルな気分になることもあるのだ。

こっそりと夕方の夏休みの屋上に忍び込んで街を眺めようだなんて思ったのは偶然だった。



途中で忘れ物を取りに来たという男子生徒と一緒に教室から出た後、友達を迎えに行くという彼に付き合って屋上へ向かった。

そして向かった階段の上。

オレンジ色の空と屋上の落下防止用のフェンス。

その外側に、一人の女の子が立っていた。

赤いマフラーを巻いた赤いヘアピンの女の子はそこから飛び降りるつもりらしい。

だから私もそっちへ行って、先に行かせてもらった。

背中で少年少女が叫び声をあげた。


−−−−


「おや、また来たのですか」


−−−−


目の前で飛び降り自殺なんて目撃してしまえば、ショックで寝込んでしまうこともあるだろう。

8月15日に飛び降りるはずだったけれどそうならなかった少女は自責の念に駆られて、大切なものであるはずの赤いマフラーを手放していた。

一部始終を目撃してしまった頭のいい少年は、それなりに親しかったクラスメイトが一人飛び降り自殺しもう一人は自殺未遂、その上知り合いだった先輩が2人も死んでしまったという現実に脳が着いて行けず学校へ登校するのをやめてしまった。

それでも自殺未遂をした少女が部屋に引きこもっているのを放っておけるはずも無く、代わりに時間を見計らっては少女の家へと足を運ぶようになった。

そこで少女の妹弟たちと本来とは早い出会いをするのだがそれはそれ。



そんな時、それはふいに『目に飛び込んできた』。


−−−−


「そうか、発動条件が『瞼を下ろす』であるために瞳の色での判別がつかなかったのか」

「目を合わせる必要も視界に入る必要も無い上、コントロールが利かなくなるということも無い」

「『目を伏せる蛇』」

「対象と目を合わせたまま瞼を下ろせば、対象に何も考えられなくなるさせる力」

「頭の中に描いた空想や想像を消して忘れさせてしまう」

「『目が冴える蛇』とは相性が最悪だな」


−−−−


「これはもうメカクシ団に勧誘しようよ」

「そうだな、目の能力もあるようだし何の問題も無い」

「・・・・・・お姉ちゃんの作戦を止めてくれた人でもあるし」



「××くん、私のせいで」

「違う、お前のせいじゃない。2人ともたまたまあそこへ行った日が被っただけだ。遺書だってあったって話だろ」

「そうじゃないの、違うの。だって××くんはあの時『死んじゃいけないよ、僕が代わりに飛び降りるから』って言ったの」

「『代わり』に・・・・・・?おい、それって」

「××くんは知っていたんだよ、私の『ひとりぼっちの作戦』を!それで代わりに蛇に飲み込まれちゃった!私の目の前で!」

「・・・・・・蛇?」

「おかしいよ、なんで私なんかの代わりになったりしたの?私なんて妹弟や伸太郎が悲しんだって自分一人が良ければいいって考えてるような馬鹿なのに。そんなのヒーローのする事じゃない。私が死ねばよかったはずなんだよ。ヒーローじゃない私なんて」


−−−−


「ほらほらそんな陰気な顔してないでさ。君達には悪いものばかり見ちゃうかもだけど、ここには輝く未来にだって繋がっているんだぜ?」



目を閉じながら彼は言った。


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