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小連載


――今度はずいぶんと田舎に飛ばされたな。

そこに降り立った時に思ったのはそんな具合だった。



一つ前にいたのは戦争ばかりの世界だったので、少々ばかり疲れていた。

まだ火薬の無い時代で兵士なんてやっていたらそれはそれは血なまぐさいこと他ならない。

死に方も痛かった。

せっかく一度目はキノコの毒にあたったという特に苦しみのない息の引き取り方が出来たのに、私が憑りついたせいで戦で敵と斬り合い片足を失ったショックと失血で倒れた後に焼かれるという形で亡くなった前回の肉体には悪い事をした。

もの言わぬ肉体だってせめて五体満足で死にたかったよなあ。



そんな事を考えながらぼーっとしていると、ふらふらと引っ張られる感覚がした。

魄に引かれる強制的な感覚とは違うので、多分近くに人がいるんだろうと思った。

この体は近くに死体が無いときは、主に生きた人間に引き寄せられるのだ。

亀の歩みで獣道を進むと、思った通りにこじんまりとした人の村があった。

畑仕事をしている人々も垣間見えたが、持っている道具はどうも鉄を使っていない木製の農具らしかった。

服装も博物館に置かれた再現人形のようだ。

これまた随分と大昔の時代に飛ばされたなあと珍しく思う。

少なくとも大きな戦争は無いだろう。

こんな場所なら少しは気楽に過ごせるかもしれない。



そんな事を考えながら空気の中を漂う事、数年。

それだけ時間があれば、小さな村で免疫力の低い幼い子供が死ぬことも珍しくない。

私は衰弱死や病死の死体には基本乗り移らない。ゆっくり時間をかけて弱っていった死体には魄の力がほとんど残っていないからだ。

乗り移ることが出来る体は限られている。その条件が突然倒れた、急死した死体だ。

突然の事故や発作で心臓が止まったとか、呼吸が出来なくなったとか、そういう死体。



今回私が乗り移ったのは川で溺れた少年だった。

例にも漏れず、私は彼が川の水を汲もうとしてうっかり足を滑らせてしまった所から溺れて沈んでいく所まで見ていた。

ああこのままでは死んでしまう、とは思うが私には彼を救う手足も助けを呼ぶ口も無い。

心臓が止まったらしいというのを感じるのは前触れだ。

いきなり水の中へ引っ張り込まれ、そのまま少年の身体に植えつけられる。

自力で動かせるようになった肉体の感触を覚えたらとにかく苦しくなる。

なにせ水死体だ。喉の奥まで水が入っていて呼吸ができないわけである。

死に物狂いで(死んでいるが)使い慣れない体を動かし水面に上がり、げぼごぼと水を吐き出してどうにか呼吸の確保に専念。

笑えないぐらい苦しい。

毒や怪我で死んだ身体も似たようなもので、憑依するたびにとんでもない死の苦しみを受ける。だから嫌なのだ。



「うえ・・・、鼻痛い」



涙もぼろぼろと零れるが、それでも肉声が話せるというのもまた嬉しいもので、ずぶ濡れになった体を横たえて痛みに耐える。

生きてるなあ、と思った。


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あきゅろす。
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