小連載
6
忍者は足音を立てずに走るべし。
とはいえ任務の終わった日常生活の中で使う術でもないだろうと考えているので、アラシはわざとパシャパシャと足音を立ててアカデミーまで走っていた。
アラシはもともと、仕事の癖を日常に出来るだけ持ち込みたくないタイプだった。
だからと言っても、別に強いストレスを感じる性質だという訳でも無いのだけれど。
しかしアラシが意識して足音を立てるのはアカデミーの送り迎えの時だけだ。
無意識のうちに足音を最小限に留めようとできるようになってこそ一人前の忍者なのだから、こればっかりはというやつだ。
ワザと足音を立てるのは弟が理由だ。
ウネリは毎日お迎えを待つ時間、保護者でごった返す玄関に立つ時に、姉の足音を探すのが楽しいのだといつの日か言っていた。
実はアラシの一族は、聞くところによると実は火の国出身では無く、忍者に縁もゆかりもない地域からの流れ者が木ノ葉の里で根を下ろしたのが始まりだったらしい。
しかし純粋な忍びの家系ではないものの、雨笠一族はこの忍者の里でも驚かれるぐらいの鋭敏な聴覚を宿している者が多い。
その血が強く出ているのか、昔からウネリは特別に音に敏感だ。
それは遠くの音はアラシのほうがよく聞こえるのだが、大勢の人間の足音を聞きわけたりする力は恐らくウネリが家族でも一番だろうというぐらいに。
その弟が、門をくぐり走ってくる姉の足音が近づいてくる音に気づいていて、それを聞くのが好きだというのだ。
弟にとっては何気ない言葉でも、嬉しいと感じてしまったのだから仕方がない。
実際は弟ほどではなくても音に敏感なアラシだ。
実力的にもアカデミーでも習う歩行術をきっちり守ればまったく無音で走ることだってできる。
要するに、今でもわざと足音を立てるのは弟の言葉を今でも覚えているからに過ぎないのだ。
アラシも、ぶっちゃけ自分でもどこかおかしい気がすると思っている。
そんな事を考えながらアカデミーの門をくぐると、雨のせいか既に周りには送り迎えの影は無い。
雨の日は早めに着いて待っているのが定石だ。
それに今日は任務が長引いたせいでいつもより遅くなってしまった。
送れてごめんよ弟。
それでも友達を変えることを選択せずに姉を待っていてくれる君は好きだけど最近心配になってきました。
あれ、変な文章になった。
この短い時間でそれだけ考えられる自分も大概だとアラシは思うが、玄関から響いてきた弟の声に意識を呼び戻される。
玄関口に弟の姿が見えたので階段の上から手を振った。
「姉ちゃん!」
「ごめん遅くなって――って雨の中走ってくるなていうかそれ借りた本じゃあ・・・!?」
「傘持ってない奴がいるから一本貸してー!でもって相合傘で帰ろうっ!」
「わかったから一回屋根のあるところに戻ろうウネリ。走ってきた姉ちゃんを休ませて」
屋根へ入ると、なるほど確かにもう人のに無い玄関で一人立っている弟と同じぐらいの男の子がいた。
そして、ああそうかこの子が、と。
気が付いた。
アラシは、ここで何かを言えば、弟がこの子供が、何を思うのかぐらい分かっている。
驚いた。会うのはこれが初めてだった。
九尾の事件を経験したにはしたが、アラシは両親そろって彼やその両親との接点が全く無かったのだ。
だから良くも悪くも関わりの無い話だった。
親しい人が九尾に殺されたわけでもなかった。
せめて弟にぐらいは、この子供に何を言うでもなく接してほしいと勝手に思っていた。
弟だってこの子の里での立場がどうのと知るときは来るだろうから、大人である自分がどう振る舞うべきかぐらい知っていた。
「帰り道、同じ?じゃあ一緒に帰ろう」
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